公園のベンチ
TOMOさんより寄稿いただいた、ToHeart SSです。
公園のベンチ
夏の厳しかった暑さは和らぎ、秋の訪れを見せ始めた今日この頃。
草木には赤味がかかって来ていた。
風が涼しさを運んでくる中、あかりは散歩の途中にいつもの公園に足を向けた。
公園の中では、子供達が夏の終わりを惜しむように遊んでいる。
砂場、アスレチィック、サッカーなど。決して狭くない公園の中を狭いと言わんばかりの元気の良さで、走り回っている。
あかりはベンチに座り、子供達を眺めている。
時折見せる微笑みの奥には、子供達に自分たちの影が重なって見えていた。
過ぎ去った無邪気な子供時代。
そして迎えた、思春期。
悩んだ。
自分のこと。親との関係。
友達との付き合い。
そして・・・浩之の事。
あかりにとって何より辛かったのは、お互いが分かり合えなかった事だった。
気持ちがすれ違い、焦り、更に2人の溝は深まった。
どれほど悩んだことだったか・・・。
今、思い出しても胸が苦しくなる。
二度とあんな思いはしたくない。
二度と・・・
不意に首筋に当てられた冷たさに思考が止まった。
「きゃ!?」
驚いて振り向くと、そこには缶ジュースを持った浩之が立っていた。
「浩之ちゃん・・・」
「ははっ。驚いたか?・・・ほら。」
そう言って、さっき缶ジュースをあかりに手渡す。
「ありがとう。頂くね」
あかりの隣に腰掛け、さっきのあかりと同じように公園で遊ぶ子供達を眺める。
「懐かしいな、あんなに小さい時あったんだよな」
「そうだね、懐かしいね」
2人はしばらく子供達が遊ぶ風景を眺める。
「ねぇ、あの時のこと覚えてる?」
「何だ、また昔話かよ」
口調こそはうんざりした様子でも、目は優しい光を灯している。
あかりにしか向けられない、あかりしか知らない浩之の目。
「浩之ちゃんは昔話嫌い?」
のぞき込むように浩之の顔を見るあかり。
「いや、好きだぜ。」
「そうだよね。嫌いな訳ないよね」
『俺達(私達)の大切な時間だから』
見事に声が重なる。
・・・・・・・・・
「そろそろ帰ろうか?」
「そうだね。随分長い散歩になちゃた。えへへ」
公園に子供の姿が消え、辺りは紅に染まっていた。
先に浩之が歩き出し、あかりはその背中を追うかたちになった。
浩之の背中を追っていると、不意に懐かしさがこみ上げてきた。
『いつからだっけ?この背中を見なくなったの・・・』
大きかったな、浩之ちゃんの背中。
でも今も変わらないね。
「おい、早く来いよ」
「う、うん」
不意の声に戸惑うあかりだけど、横に並んで歩くのにためらいはなかった。
付いて歩くより、並んで歩きたい。
ささいな願いだった。
それが、あかりのとっては大事な願いでもあった。
願いが叶った今、何を望めばいい?
これ以上何を願うの?
浩之ちゃんは、何を望んでるの?
「あかり。良いよな、俺達。一緒に居られて・・・」
そうだよね。それで良いんだよね。
「一緒」
に居ること。
それで良いんだ。
『また、あのベンチでお話しようね、浩之ちゃん』
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