風邪

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味醂田さんより寄稿いただいた、ToHeart SSです。

風邪

ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ…

 何時も通りに目覚ましが鳴り、何時も通りの時間に目が覚める。
 …とは言え、どーも最近まともな時間にベッドに入ってないからなー、まだ眠い。
 お陰でまだ頭がボーッとしてるよ。…ったく、今日は何時間寝れたんだ?
 とか何とか考える前に、ひとまず起きよう。学校行く支度をしなくちゃな。

カシャッ!

 カーテンを開けると、外はいい天気。んー、暖かい日差しだ。
 こんな日差しを浴びながら朝一番の伸び…これがまた気持ち良い―――

ぐらり…

「をや?」

バタン!

 …気がつけば、視界は床を映して横倒れ。
 身体の痛みを感じる前に、「何故に倒れるか、俺?」という疑問が生まれる。
 おかしい。取り敢えず、原因を追求してみよう。
 酒…は、飲んでない。って未成年だよ俺は(お酒は二十歳になってから!)。
 寝起きだから?…まぁ、確かに寝覚めで多少はボケてるが、いきなり倒れるほどでもない。
 後は思い当たらないぞ?と、思案してるとくしゃみが一つ。
 結論。
「…風邪、かな?」
 確か体温計がリビングにあったよな…

『41度5分』

 うを!すげぇぜ俺!
 って感心してる場合ぢゃねーぞ!どーりでいきなり倒れるわけだ、うん。
 …いかん。現状を把握したらいきなり身体が重たくなった。あ、咳も出始めた。
 今日は学校を休もう。とてもじゃないがこの体調じゃ何も出来そうにない。つーか何かやったら死ぬぞ。
 とりあえず、学校に電話を入れて。あ、あとあかりの所にも連絡入れねーとな。
 いや、どうせあかりは家に寄るんだから電話入れなくてもいいか、等と考えつつも電話の前へ。
「えーと、学校の電話番号は…」
 と、アドレス帳をひっくり返していると…

ぐらり…

「あや?」

 あれ?踏ん張りが利かな―――

暗転。

…。
……ん?。
………額が…。
………やけに…気持ちいい…。

「んあ?」

 我ながら、何とも間抜けな声を上げながら目が覚める。
 視界に写るのは、見慣れたリビングの天井。
 …。
 …。
 …リビングの…天井…。
 ……リビングぅ?

がばり。

 言う事を聞かない体に鞭打って、ひとまず上半身を起こす。
 と、目の前に濡れたタオルが落ちる。
 どうやらこれが心地よかった理由か。
 よく見れば俺の体には毛布が被せられているではないか。しかもソファーの上で。
 …待てよ?
 確か俺は…
 朝おきて、風邪ひいた自分に気づいて、学校に電話かけようとして…。
 そこで記憶がぷっつりと切れてて…。
 …その後…まさか、ねぇ…
 と、色々と思考を巡らせていると…

―かちゃり

 静かにドアが開く音。続いて

―とさっ

 氷嚢が落ちる音。そして

「浩之ちゃん!」

 あかりが、俺の名前を呼んだ。

「あかり…なんでお前がここに…」
 と、俺が何か言いかけようとする前に。
 まるで飛び込むかのように俺の胸に抱き付いてきた。
「…えっく…心配した…よぅ…ぐす…」
 ?泣いてるのか?…まぁ、無理もないか。
 いきなり玄関先で俺が倒れてたんだろうからなぁ…

 で、大方の予想通りに。
 玄関先でひっくり返ってる俺を見て慌てたあかりは、ひとまずリビングのソファーに俺を寝かせ、体を冷やさないように毛布をかけ、熱を冷ますために濡れタオルの交換と氷嚢の準備をしてた、という訳。
 一通り、あかりが教えてくれた。少し涙声だったけど。

「本当にびっくりしたんだよ?浩之ちゃんが玄関で倒れてたのを見つけた時は」
 そう言って、少し怒った顔で俺を見るあかり。
「あ、あぁ…わりぃ。すっかり心配かけちまったな」
 かくいう俺はテレと恥ずかしさで、まともにあかりの顔が見れないでいる。
「駄目。ちゃんと私の目を見て言って」
「お、おう。わかった」
 と、ふと視線を動かせば時計が目に入り。
「…なぁ、あかり」
「何?浩之ちゃん」
「お前…学校どうした?」
 そう。時計は既に昼を回っていたりする。
「…その…浩之ちゃんが、心配だったから…」
 そう言って、顔を赤くして俯くあかりに対し、
「まさか、無断欠席?!」
 逆に少し青い顔になる俺。
 俺はともかく、あかりが学校を無断欠席というのは非常にマズイだろう、いろんな意味で。
「あ、それなら大丈夫だよ。ちゃんと学校にも家にも連絡入れたから」
「あ……そう」
 そんな事を言ってはいるが、一体どんな連絡をしたんだ?

 一向に姿を見せない二人が気になり、クラスを代表して智子が担任の教師に問い掛けた。
「先生、藤田君と神岸さんの姿が見えないんですが」
「ん?あぁ…神岸から『藤田が今日風邪で休む』って連絡があってな」
「…そうですか」
 その一言ですべてを理解し、納得するクラス一同。うなずく教師。血涙を流す矢島。

…このクラスって一体…

 受話器を置くあかりママの表情は、嬉々としていた。
 …って、自分の娘が、小さな頃から知っている相手とはいえ、男の家に居るんですよママさん?
「なかなか大胆になったわね、あかり」
 とか何とか言ってるそばから、歌を交えて小躍りするあかりママ。

「♪私の夢は、30代で孫を腕に抱くことなの~」

あの…ママさん…?

「お弁当に手を加えただけなんだけど…いいかな?」
「おう、あかりの手料理なら何でもいいぞ」
「そ、そんな…もう…(真っ赤)」
 などとあかりをからかいながら(いや、実際あかりの手料理は最高なんだが)、二人で昼食を摂り始めた。
 まぁ、それはいいのだが…。
「はい、浩之ちゃん」
「…なぁ、あかり…」
「はい、あーん」
「…いや、だから一人で…」
「あーん、して☆ミ」
「………」
「あーん☆ミ」
「…お、おう(真っ赤)」

ぱく。くむくむくむ。こっくん。

 まぁ、確かに俺は病人で、現在簡易ベッド(ソファーともいうが)で寝ているとはいえ。
 この『にこやかな顔して「はい、あーん」攻撃』は恥ずかしい。嬉しいのだが、猛烈に恥ずかしい。
 …絶対に人には見せられねぇな、こんな姿(特に志保に知られた日には、何言われるか解らないしな)。

「…ふぅ、ごっそさん」
「ふふっ、おそまつさま」
 少し遅めの昼食も終わり。
 暖かな午後の日差しを受け、ゆるやかに流れる二人っきりのひととき。
 …あぁ、なんかいいなぁ…
 これで、風邪さえ引いてなければ、な。
 などと考えてると。

すっ。

ぴとっ。

「あかり?」
「熱は…すこし、下がったみたいだね」
「……あ…あぁ」
「…浩之ちゃん」
「な、何だ?」
「なにか…してほしい事、ある?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…暫く、そうしててくれ」
「うん」
 突然の行為に、少し驚いて。
 額に当てられた手が、心地よくて。
 あかりが傍にいてくれる事が、嬉しくて。
 自然に、そんな言葉が零れた。

「…なぁ、あかり」
「なに、浩之ちゃん」
「あの時と…立場、逆だな」
 ふと思い出す、春先の出来事。
 あの時は、俺がこうやって見舞ってたんだよな…。
「うん…そうだね」
「………」
「………」
「………」
「…でも」
「でも?」
「あの時、とっても…とっても嬉しかった」
「…そっか」
 優しく微笑みながら、ゆっくりと俺の頭をなでるあかり。
 その心地よさと日差しの暖かさとで、抗う事無く睡魔に飲み込まれていく。

「…いつも…ありがとな、あかり…」

 薄れゆく、意識の中で。
 言いたかった一言を、伝えたい言葉を、呟く。
 あかりが何か喋ったようだが、睡魔に深く取り込まれた俺には、すでに聞き取る事はできなかった…。

 目が覚めれば、リビングは夕日に包まれてた。
 …って、夕方ですか?
 寝過ぎだ、俺。
 あれから体調も少しは回復したし、そろそろ起きて…
「…?」
 …そこで感じる、かすかな重み。
 ふと視線を動かせば。
 あかりが、静かに眠っていた。いわゆる「添い寝」というヤツだ。
 …きっと、疲れたんだろうなぁ…
「サンキュな、あかり…」
 起こさない様に、ゆっくりと頭をなでる。

 …そうだよな。
 こんな華奢な体で、一生懸命俺を支えようとしてくれてるんだよな。
 疲れて眠っちまうのも、無理ないか。
 何時か俺も。
 あかりをしっかり支えてやれるような男にならないと、な。

 などと柄にもない事を考えてると、

「ん………あ、ひろゆきちゃん?」

 眠り姫が目を覚ました。

「あ、わりぃ。起しちまったか?」
「ううん、そんな事ないよ」
 そう言って小さく伸びをすると、はたと何かに気が付いた表情になる。
「あ、いけない」
「ん?どした?」
「夕ご飯…支度しなくっちゃ」
 言われてみれば、もうそんな時間である。
「夕ご飯って…作ってくれるのか?」
「うん」
「そっか…サンキュな」
「うん!腕によりをかけちゃうんだから!」
 小さくガッツポーズを取りながらそんな事を言う。まったく…可愛いやつである。
「んじゃ、俺は自分の部屋に戻ってるから、出来たら呼んでくれな」
 さすがに丸一日ソファーの上では過ごせない。気が付けば背中がすげぇ痛いし。
 よっこらせ、とオジサン臭い掛け声といっしょに立ち上がり、歩きだ…そうとして…

ぐらり…

「うぉっ?」
「きゃっ!」

ぼすっ

 どうやら、体調の方は万全ではなかった様だ。
 本日3度目の転倒。しかも今度はあかりを巻き込んでるし。
 とはいえ、フローリングじゃなくて、ソファーに倒れこむような格好でよかっ…
「ひ、浩之ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈…ぶ…」
 …ここではたと気づく。
 理由はどうであれ、結果としてあかりを押し倒してしまった。
 すぐ目の前にあかりの顔が…。
 鼓動が高鳴るのがよく分かる。
 あかりもようやく今の状況が如何なるものかが理解できた様子で、頬を染めたまま一言も喋らない。

 暫くの、沈黙。

「…な、なぁ、あかり」
「な、なに?浩之ちゃん」
「風邪って、汗かくと治りが早いんだってな」
「え?う、うん、そう…みたいだね」
「…いっしょに、汗…かかないか?」
 そう言って、あかりの頬に手を沿える。
「…え…?」
 少し間をあけた後、言葉の意味に気づいたのか、潤んだ瞳で俺を見つめると恥かしそうにうなずいた。
 ううっ、か、可愛すぎる…
 駄目だ。もう抑制が効かない。
 次第にお互いの顔が近づき、もう少しで唇が触れあ―――

バァン!

「やほ~っ!ヒロ、元気に病人して…」
「せやから、勝手に人の家に上がり込むのはアカン…」

「「「「あっ」」」」

 全員、硬直。

(…暫くお待ちください…)

 硬直、解除。

「え?え?え?」
「あ、いや、その…」
「「何やっとるんだあんたらはぁ~~~っ!!!」」

ドカバキィッ!!

「ぐはぁっ!」

びったーん!

 豪快に吹き飛ばされ、盛大な音と共にリビングの壁にキスをする。
『お…お約束すぎる…』
 薄れゆく視界の中に、ヤクザキックと桃色の風を放った二人とその間でおろおろするあかりを捕らえつつ、そんな事を思うのだった。

 その後。
 二人による詰問が深夜まで及び、結果、肺炎寸前まで風邪を拗らせ、もう数日間学校を休むハメになった事。
 そしてその間、あかりが甲斐甲斐しく世話をしてくれた事。
 この二つがあった事を追記しておこう。

 …風邪なんて、引くもんじゃねぇな…

「風邪」 完

 

【後書き】

 はい、どーも。初めまして。味醂田(←これで「みりんだ」と読む)という者です。
 この手のSSは初めてです。っつーかSS自体が初めてです(笑)。
 ネタ自体はいろんな所で使われているものですし、内容も恐らくどっかで被っているかもしれません(^^;
 もし被っていたら、寛大な心で笑って許してください>SS作家の皆様。
 それと、この作品が面白くなかった場合も、やっぱり寛大な心で笑って許してください>読んでくれた皆様。

 閑話休題。

 しかし良いですねぇ、ToHeart。特にこの二人(個人的意見)。
 いや、マルチや委員長や葵ちゃんも好きですが(笑)、やはりこのペアに敵うものは無いでしょう。
 まぁ、私自身が「(異性の)幼なじみ」という言葉に弱い&惹かれてる、っつーのが最大の要因ですが(爆)
 でも、それを抜いてもやっぱりこの二人は、ベストカップルの一つだと思います。
 (他には「ONE」の浩平&瑞佳のカップル(これもやっぱり個人的意見)等)

 と、言う訳で(どんな訳だ?)。
 機会があれば(あるかどうかは不明ですが)、次回作で会いましょう。

追伸:あかりママの年齢、実は知らないので30代後半という設定をでっち上げています(笑)。

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Still quiet here.

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