新しい夜明けに

新しい夜明けに

――新しい夜明けに――
――はぁ……
白い息が澄み切った冬の空気に溶け霞んで消えた。
「もうちょっとだね」
「ああ」
言葉は少なくてもそれだけで十分な。
そんな雰囲気に包まれて。
「いろいろあったね、今年も」
「ああ」
それだけで。
想い出は言葉にしなくても。
瞳に映るお互いの姿を見つめて。
巡る季節の色に想いを馳せて。
刻み込んだ想いを確かめ合い。
共に歩んできた一つの時が。
今。
終わろうとしていた。
「どう? いい一年だった?」
「そうだな……」
答える代わりに。
「――あ……」
肩を抱き寄せ少しだけ冷えたお互いを温め合う。
温もりと温もり。
厚いコート越しにも互いの温もりが暖かくて。
「お前はどうだった?」
「もうっ。すぐごまかすんだから」
拗ねたような微妙な笑顔が眩しくて、愛おしくて。
「うん?」
照れ隠しに笑顔で濁し。
「ふふふ……」
見透かされたように微笑まれて。
「まぁ、いい年だったよ、な」
少しだけ本音で。
心からの言葉。
「うん」
「楽しかったからな」
風が吹く。
身を切る冷たさを運び、街を駆け。
「そうだね」
新しい一年の予感を感じさせながら。
「いろいろあったよね」
「ああ」
「私も。すっごく楽しかったよ」
きゅっ、と回した腕に少しだけ力を込めて。
少し赤く染まった頬と、細めた瞳で見上げて。
「もうすぐだな」
「――うん」
次第に高まる周囲の喧騒は、けれど遠くて。
ただ。
静寂にも似たふたりだけの穏やかな時間が。
ただ。
かけがえのないもので。
「――あっ」
一気に盛り上がる興奮と熱気。
歓声。
口々に楽しそうに言葉を交わす人波の中で。
「あけましておめでとうっ」
満面の笑顔で。
本当に幸せそうな笑顔で。
「今年もよろしくねっ」
少しだけ背伸びして耳元で聞こえた元気な声に。
「ああ」
オレも笑顔で。
一番たいせつなひとに。
「今年もいい年にしような」
挨拶がわりの優しいKiss。
真っ赤な顔で驚いて。
涙を浮かべて。
微笑んで。
「うんっ」
答えたこいつの笑顔が。
今年最初の想い出だな。
そう思った。

──了──