白い夢…

葵惑星さんから寄稿いただいた、Kanon SSです。

懐かしい色……。
でも今は悲しい色……。

真っ白に染められた町……。
俺の貴重な思い出が詰まった町……。

こんな形で訪れたくなかった……。
悲しむためだけに来たくはなかった……。

だけど…………。

<白い夢…>

それは昨日のことだった。

俺が大学から家に帰ると『相沢祐一様』と書かれた、一通の封筒が来ていた。
差出人のところには『美坂香里』と記されていた。

俺は早速中の手紙を取り出して目を通す。
そこには短くこう書かれていた。

『相沢君、突然で悪いんだけど…こっちに戻ってきて欲しいの。妹が…栞が急に倒れて………。たぶんこの手紙を読む頃には御葬式とかは終わっちゃってると思うけど…。あの子のお墓にお花だけでも…。それじゃあ待ってるわ』

俺はその日のうちに家を出た……………。

駅についてから俺は取り合えず、香里の家に電話した。
電話には香里が出て、10分後に迎えに来るということだった。

俺はベンチに腰をおろして町を見渡す。

2年前となんら変わらない色。
真っ白く染められた町。
俺の目の前を通り過ぎる厚着をした人。

なにも変わってない………。
変わってないのに………。

10分後、知った顔の女性が俺の座るベンチに向かって歩いてきた。
俺はベンチを立ってその女性に近寄る。

「よう。久しぶりだな、香里」
「久しぶり。相沢君……」
香里の言葉にはまったく覇気が感じられなかった。

「それで……栞は…」
俺が聞くと香里は消え入りそうな声で言った。
「栞…元気だったのよ。相沢君と会って、奇跡的に病気も回復して…。毎日学校通ってたし…。休日には友達と遊びに出かけたりして……。なのに……なのに、急に発作が起きて………」
香里の目には涙が溢れていた。
「あの子ね……最後まで…ほんとに最後まで、あなたの名前を呼び続けてたのよ…………」
そう言って香里は俺の上着をつかんだ。
「なんで居てくれなかったのよ!なんで栞の側に居てくれなかったのよ!なんで………」

泣き崩れる香里。
その肩に添えた俺の手のひらが熱く濡れていた……。

香里に連れられて、俺は栞の眠る墓地を訪れた。

雪が降り出しそうな空…。
その空が悲しみを増幅させていた…。

俺の前を歩く香里が立ち止まる。
「ここよ…」
香里が見つめるその前には『美坂家之墓』と書かれた墓があった。

「栞………」
俺は手に持った花を、墓の花瓶にうつす。

「相沢君…雪降ってきそうだから、あたし先に帰るわね」
俺に気を利かしたのか、それともこの場に居るのが辛かったのか…。
香里は俺を残して今来た道を戻っていった…。
その、後姿がかすかに震えているように見えた…。

一人っきりになって俺は墓の中で眠る栞に話し掛けた。

「栞…」
「ごめんな…」

「俺…馬鹿だよな…」
「俺…最低だよな…」

「今更後悔してんだぜ」
「今頃になってお前の存在の大きさに気付いてんだぜ」

「俺、お前になんかしてやれたかな?」
「俺、お前を苦しめただけだったんじゃないかな?」

「そうだ、覚えてるか?俺とお前がはじめて会った時のこと」
「あの時は迷惑かけたっけな」
「雪がどさっと落ちてきて……」

「それから、あの時はびっくりしたぜ」
「お前が雪が降る中ずっと外に立っていた時」

「それから、昼休みに忍び込んできてたのにも驚いたぞ」
「ついでに食べたい物がアイスだもんな」

「……こうやって考えると俺、驚かされてばっかりだ」

「デートもしたっけな」

「公園にも連れてってもらったな」

「商店街でショッピングもしたよな」

「俺の家、と言うか名雪の家にも来たんだよな」

「学校にも忍びこんだっけ」

「奇跡的に病気も治って…」

「俺とお前と名雪と香里で昼休みに一緒に弁当食べて」

「俺の卒業式じゃあ泣いてたっけな」

「俺が実家の方の大学に行くって言った時は必死になって俺を止めようとしたよな」

「それでも俺は実家に戻って…」

「でも約束したんだよな」

「大学卒業したら迎えに来るって」

「なのに…なのによー…」

「なんで……待っててくれないんだよ…」

「約束やぶんなよ……」

「俺のこと待っててくれよ……」

「俺一人、取り残さないでくれよ……」

「俺もお前の側においてくれよ……」

「俺もお前のところに行きたいよ……」

「会いたいよ……」

「話したいよ……」

「抱きたいよ……」

「キスしたいよ……」

「戻って……こいよ……」

辺りはすでに日が落ちて暗闇に包まれていた。

空からは白い雪が落ちてきた。

俺の目は真っ赤になっていたんじゃあないだろうか。
俺は泣いた。
一生分。
枯れるまで泣いた。

それでもこの気持ちは押さえられなかった。

悔しさ…。
無力さ…。

空から落ちてくる雪が俺の体にあたっては消えていく…。

そしてその雪はいつしか大きな結晶へと姿を変えていた…。

暖かいぬくもり…。

柔らかなぬくもり…。

「祐一さん」

ん?

「起きてください。祐一さん」

ん、栞…か?

「そうです。栞ですよ」

どうしたんだ、一体?

「祐一さんに会いに来たんですよ」

えっ?

「約束したじゃないですか、迎えに来てくれるって」

あっ、そうだったな。

「あー、もしかして忘れてたんですか?」

そんなわけないじゃないかよ。

「そうですよね。祐一さんが忘れるわけないですよね」

よし、じゃあ行こうか。

「はい」

これからはずっと…一緒にいられるからな。

「はい……」

雪…。
雪が降っていた…。

懐かしい色……。
でも今は悲しい色……。

真っ白に染められた町……。
俺の貴重な思い出が詰まった町……。

こんな形で訪れたくなかった……。
悲しむためだけに来たくはなかった……。

だけど…………。

俺は今…………幸せだ…………。

後書き

この作品から俺の作風が少し変わってたりします。
実は、ゆーいちさんの作品に出会ったからです。
それを読んで、めちゃくちゃ影響されちゃったわけで…(^^;

最後のところ
祐一がどうなったかは皆様の想像にまかせます。