うさぎの映画館

2008年8月21日

stars 春の陽射しのような優しくて暖かな物語

電撃文庫のカラーからは少し外れているような印象の異色作。大きな物語の動きも、超能力も超常現象も出てこない、本当に日常を切り取ったような物語でした。

流行らない骨董屋「銀河堂」でバイトをする主人公・静流と、そこを訪れた人々とのちょっとした交流から生まれる小さな物語の連なり。静流自身の過去の忘れられない傷や、将来への漠然とした不安への、一つの区切りが生まれるまでのお話。偶然に出会った同級生・雲井くんとの微妙な距離感の取り方や、友人・友子との何気ない会話とか、この年代の少女の等身大の想いが投影されているように感じました。

雲井くんの遠回しなアプローチが、静流の過去の傷に結びついていったり、それがトラウマの克服への第一歩になったりと、大きな展開はなくとも、静流という少女の小さいけれども確実な成長が描かれていたり、全編に渡って少しもの悲しくも暖かな雰囲気の感じられる作品でした。

最後の鳴海さんの正体については驚かされましたが、あれは一体どういう意味なのか……。一喜一憂する雲井くんの姿は微笑ましくはありましたが、ワンポイントのサプライズというだけの仕掛けだったらもうちょっと事前から仕込みを入れておいてほしかったかも。

hReview by ゆーいち , 2007/06/04

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殿先 菜生
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