人類は衰退しました

2013年4月18日

stars 妖精さん観察記

田中ロミオがラノベ界に降臨。えろげのシナリオライターとしては個人的に要注目のライターさん。といっても、私がプレーした作品は『神樹の館』までなのですが。まぁ、『家族計画』『CROSS†CHANNEL』を世に送り出しただけで十二分以上に信奉に値するひとなのですが。

そんな氏のラノベ第一作。なんとも緩い、いや、ゆる~い。人類、いわゆる人間はその万物の霊長としての地位をすでに新人類に明け渡し、衰退の一途。そして、新たな地球の覇権を握ったのは、なんともぷりちーな妖精さんたち。もう、覇権とかそんなんじゃなく、単純に人間らの種としての限界が訪れ、そこにするりと妖精さんたちが収まったという感じ。主人公を始め、彼女の祖父も、伝聞で語られるあらゆる人々が、滅びを受け入れ、けれども、それがゆえか悠々自適なスローライフでその生を紡いでいるというか。

そんな妖精さんたちと、主人公のコミュニケーションもまったり風味。主人公があれこれ干渉するたびに、なんともピントがずれたり、斜め上な反応を返したり、そして、恐ろしいまでの技術力を発揮して見せたり。いや、もう、何が何だか分からないがとにかくスゴい、としかいいようのないスキルとテクノロジー。冗談と笑って伏すことのできない世界だからこそ、その光景のシュールさが際だちます。

終盤はちょっとしたことから、人類の歴史をペーパークラフトベースで再現してしまった妖精さんたち。ほとぼりが冷めるのを待つような、お茶を濁した報告で閉じられた本作ですが、なんか暗い予感を覚えさせる種がまかれたように思えてしょうがないですね。なにやら続刊の企画もあるようなので、田中ロミオの真骨頂は、そこから発揮されるといっても良いのかもしれません。
氏の作品を知らない人にとっての、ファーストコンタクトとしては申し分ないですが、これまでのPCゲームシナリオに触れたことのある人からすると、ややロミオ分が足りない感じもするので、今後はそういった濃いファンに向けた作品も書かれることを期待したいです。

hReview by ゆーいち , 2007/07/01

人類は衰退しました

人類は衰退しました
田中 ロミオ
小学館 2007-05-24