たま◇なま ~生物は、何故死なない?~

2008年8月18日

stars 第1回ノベルジャパン大賞受賞作 突然現れた宇宙人に振り回される少年の物語 鬱展開もあるよ

氷見透が帰宅すると、そこには鉱物生命体の少女・由宇が居た。全く理不尽な理由で家族を亡くした少年が、全く理由もなく突然人間を止めさせられるお話。

たとえば超越的な宇宙人を相手としたボーイ・ミーツ・ガールなお話は、S式コミュニケーションなどがぱっと浮かんだりして、文明レベルや知能レベルの大幅な隔絶から来るコミュニケーション不全だとかは、結構語られ尽くしてる感じがありますね。

本作の主人公・透は、その背景に非常に凄惨な過去を持ち、他人との関わりを無気力に回避するようなただ生きていくだけの存在になっていたりして。そんなときに出会った由宇との関わりの中で、そもそも生きることの意味だとかそういう根源的な部分にまで思考を深めていきます。もっとも答えが出るような命題でもなく、本巻の結末にて由宇が語ったような答えも一つの正解ではあれど、唯一の答えでもなくて、ただ、作品のテーマとするにはちょいと重すぎるのかなあという感じ。

会話部分の軽薄さとかと一線を画すかのように中盤以降は由宇の「敵」の暗躍で、だんだん雰囲気が暗くなっていって好みが別れそう。今回の悪役自体は薄っぺらくて、低俗で、世間に掃いて捨てるほどいる、文字通り使い捨てのキャラですが、だからこそどこにでもある日常の裏側の危機の象徴ともとれるのが困ったものです。

お話自身は完結してなくて、今後も続けようがあると思うけど、ワンパターンな展開になりそうなので、無理に延命するよりは他作品の執筆に期待したいかな。

hReview by ゆーいち , 2007/09/01

たま◇なま ~生物は、何故死なない?~

たま◇なま ~生物は、何故死なない?~ (HJ文庫 ふ 3-1-1)
冬樹忍 魚
ホビージャパン 2007-06-30