たったひとつの冴えたやりかた

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stars 相互理解の断絶を越えて── 構成の妙と切なさの残るラストに脱帽です

いや、やっぱり時間をじっくり取って読み進めないと、なかなか頭に入ってこないんですよ、SF作品は。ってことで、『輝くもの天より墜ち』からはずいぶんと間が開いてしまいましたが、わたしでもタイトルを知っていた本書『たったひとつの冴えたやりかた』を読了しましたよ。あああ、またしても激しくショックを受けてしまうわけですが。素晴らしいの一言。文章が読みやすかったのが幸いしたのか、だれることなく最後までいけました。絶妙な翻訳だったんでしょうかね。

本書は3編の短編連作で、とある学生たちに司書が提示した物語がそれであるという形式で綴られていますが、もう、この形式を取っているのが何とも巧みで、通して読むと最初で仄めかされていた伏線まできっちり回収してますね。読み終えてから、幕間の学生らと司書の会話を読み直すと、なるほどと唸らされますね。

たったひとつの冴えた

ラストは何となく知っていたのが残念無念。コーティと彼女の脳内に寄生したシロベーンの関係は種族・存在を越えたものでありながら、確かな友情を短い期間に作り上げ、けれど互いの未熟さから、最後は破滅的な結末に至ってしまったお話。物語の進行が、最初は彼女らの口を通して語られ、後半はメッセージ・パイプに託されたカセットにより、すでに起こってしまったものを確認させられるという形になるのが、何ともいえないやるせなさを感じさせます。作中で採られた「たったひとつの」方法が是が非かはともかく、彼女らの心の動きをまさに追体験しているような感覚すらも覚えました。泣けるかどうかだと、残念ながら泣けはしなかったんですが、この展開はずるいくらいに琴線を揺さぶりますね。こういう展開の物語は今は比較的触れる機会は多いですが、やはり来るものがあります。

グッドナイト、スイートハーツ

ラストが分かりづらいなあという印象でした。自由と愛の二択という、どっちを取っても別に間違いじゃないけれど、期せず訪れたその機会。主人公のレイブンが選んだ選択は……。これは読み手によってどちらを選ぶか、あるいはどちらも選ばないかという様々な選択が浮かぶんでしょうが、SF世界を舞台に、人間を描いているなあと。こういう不可解な情動を持つのが、作中世界だとヒューマンの特徴と捉えられているのがなんとも興味深い感じがしました。

衝突

3編の作品中で、わたしが一番感銘を受けた物語。言語が通じず、相互理解ができない状態から、破滅的な選択を避けるために両者が互いに歩み寄っていく過程が双方の視点で描かれた作品。通じない言葉、存在しない概念、互いの断絶を越えて、戦争という無慈悲な状態への突入を回避しようとするヒューマン側の宇宙船の乗組員たちの奮闘が印象的です。
そして、全くの異文明の種族であるジーロとムルヌーの在り方が何やら琴線に引っかかったようで。短い命をジーロの子を育てることに費やすムルヌーと、彼らを慈しみ大切に思うジーロの親の関係が儚くて美しく見えてしまいます。絶妙な翻訳なのか、彼らの会話はシンプルなんだけれども、心に響くような真に迫ったもので、どうにもこうにもこういう流れには弱いですね。ラストは、3編中で一番平和的で希望的。こういう形の乗り越えられるべき断絶を丁寧に描いた作品というのは知らなかったので、それだけで感動です。

──ああ、というかこういう作風なんだな、ティプトリー。また別の作品も読みたくなってくる。少々難解な部分はあるけれど、そこを乗り越えても楽しむ価値のある物語でした。いや、ホント読んで良かった。

hReview by ゆーいち , 2008/01/03

たったひとつの冴えたやりかた

たったひとつの冴えたやりかた (ハヤカワ文庫SF)
ジェイムズ,ジュニア ティプトリー 浅倉 久志 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
早川書房 1987-10
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One Trackback to たったひとつの冴えたやりかた

バックドロップキックス
バックドロップキックス 2008年8月29日 at 22:30:23

たったひとつの冴えたやりかた 改訳版/ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

『今日の早川さん』で登場したので、あとタイトルが素敵だったので買ってみました。
これはハヤカワ文庫で出たジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの短篇集(?)のうち、この『たったひとつの冴えたやりかた』だけを改訳、本にしたものです。…

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