全ての歌を夢見る子供たち―黄昏色の詠使い〈5〉

2008年8月18日

stars Episode.1 完結! 美しい詠の響きはどこまでもどこまでも

クルーエルが倒れてから1週間。心の中に詠ばれた真精という、異例の事態に打つ手はなく、彼女の容態は悪化する一方。可能な手を少しでも施そうと、ティンカはクルーエルをアカデミーからケルベルク研究所へ搬送する決定を下す。何もできないネイト。そんな自分に無力を感じながらも、最後まで諦めないために、彼女を信じるために、ネイトはひとりケルベルク研究所を目指す。シリーズ第1のエピソード完結。この美しい重唱を聴いていますか?

世界が綺麗すぎて直視できなくなるくらいまぶしい。そこに息づくひとたちも、残された優しい想いも、これから育んでいく大切な気持ちも、何もかもが世界を慈しみ、そんな世界から愛されて生きている。作品の中で一貫して感じられる、そんな美しい雰囲気を損なうことなく、ネイトとクルーエルを襲った苦難の最初の物語がようやく幕を下ろしました。

夜色と空白。これまで存在すら誰も思いもしなかった異端色の名詠を行うふたりの出会いから始まった、新しい約束がなされるまでの物語。出会いからのわずかな時間をともに過ごしただけなのに、ネイトとクルーエルのふたりの関係は、もはや切り離せない両翼のようで、だからこそ、どこまでも飛んでいける強さと希望を感じさせてくれるものです。

灰色名詠に魅せられ、その力を信奉していたミシュダルの、背景の説明がやたらと唐突で、最後の最後に救ってみせたのは、この作品の優しさでしょうか。けれど、名詠を続けることで、大人になることで忘れてしまう何かを取り戻したという意味では、彼の存在というのは決して単なる敗北者というだけではないと思うのですけれどね。

そんなミシュダルをすら圧倒してみせた、ネイトの夜色名詠。クルーエルと手を携えて詠い上げたからこその、美しい重唱。ひとりでは為し得なかった名詠を、ふたりだからできるというのは素敵なことで、彼らが今後も運命に翻弄されようとも、ここで作り上げた想いが分かたれることはないんだろうなという希望がありました。

序盤でうじうじしていたネイトはらしくないなあと思いましたが、研究所にたどり着いてからの彼の決意と行動は、いっぱしの男の子で、クルーエルにも子ども扱いされない、パートナーとしての成長を感じさせてくれました。なんとも、良い感じの関係を続けて行けそうですね。

世界の真実の一端は語られたものの、残された謎はまだあって、シャオの率いる一派が今後どのように物語に関わってくるのか。次エピソードと今エピソードを繋ぐ、短編集である6巻が今から楽しみです。

本当に、きれいな物語でした。

hReview by ゆーいち , 2008/02/22