ウィザーズ・ブレイン〈3〉光使いの詩

stars それでも……すべてをなげうっても守りたいものが、君にはあるだろう

北米、シティ・マサチューセッツ。簡易型《魔法士》の量産に成功したファクトリーと軍の統治下にあるシティ。そこを訪れる黒沢祐一。かつての戦友であり、今はマリアと名を変えた彼女の助けに応えるために。ファクトリーの《魔法士》ディーはシティで破壊活動を続ける光使いを追う中で、セラという少女と出会い、そして祐一と出会う。

騎士としても規格外の能力を持ちながら、その性格ゆえに不良品の烙印を押されたままのディーと、彼の姉としてディーを守りつつ居場所をそこに定めていたクレア。セラと、彼女の母・マリアとの出会いは、ディーの運命を大きく変え、癒えない傷を残す大きな事件へと発展していって。

実験体として生きてきたクレアにはじめてできた弟分のディー。血の繋がりはなくても、たったふたりだけの居場所を守り続けてきたクレアにとって、セラの存在は紛れもない脅威で、それゆえにどうしてもディーを取り戻したいと願う彼女の必死さは痛々しいくらいでした。結局、彼女の祈りは叶うことなく、クレアがこれから歩む道は、厳しいものですが、いつか再び相まみえるときに、戦う以外の選択が生まれてくれることを願うばかりですね。

そして、セラとマリアの不器用な親子関係は、決定的に終わってしまってからようやく通じ合うという皮肉さで、終盤の展開はセラにとっては余りに辛いものですね。残されてしまったセラと、決して贖うことのできない罪を背負ったディー。祐一に諭された、強さの意味と戦うことの意味。それを真に理解できる、そのときが来るまで、苦しみ続け、けれど生き続けていかなければならない。ふたりだけの逃避行、軍に狙われ続ける未来は明るくないけれども、だからこそ、かつてと現在のふたつの場所で、マリアとクレアの祈りがどうか届くようにと願わずにはいられません。

hReview by ゆーいち , 2008/04/18

ウィザーズ・ブレイン〈3〉光使いの詩

ウィザーズ・ブレイン〈3〉光使いの詩 (電撃文庫)
三枝 零一
メディアワークス 2002-10