ウィザーズ・ブレイン〈5〉賢人の庭〈上〉

stars お待たせ……真打ち登場、かな?

賢人会議の手がかりを求め、シティ・メルボルン跡地を訪れたディー、セラ、祐一。そこには、旧知の求めに応じて真昼と月夜も訪れていた。そこで出会うサクラという少女。マザーシステムの犠牲にされる子どもたちを救うために、シティに対してテロ活動を行い続ける彼女は、今もたったひとりで戦い続けている。

前巻と時系列を同じにした、ある意味裏エピソード的なお話。シティ・マサチューセッツでの戦いの後、その追っ手から逃げるように、あるいはたった一つの手がかりを頼るようにしてディーたちが訪れた、シティ・メルボルン跡地で出会う、もうひとりの『元型なる悪魔使い』サクラとの物語。

大切なひとを守れなかったという過去がサクラの行動の根源。それはシティの、そこで暮らす一千万のひとびとの犠牲となる魔法士を救うためならば、あらゆる犠牲を厭わないという矛盾をはらんだもので、けれどそれは犠牲となるべき魔法士の子どもたちから見たら、間違いなく救いであるということがなんとも難しいですね。一方では悪のように描かれつつも、今回のエピソードでは彼女を中心に描かれているだけに、正しいとか正しくないかとかで判断できるような問題ではないのでしょうね。

ディーとセラの関係もぎくしゃくしたままで、自らを許せないディーと、彼を許したいのに、悲しい顔をしてほしくないのに、母の死という彼女にとって途方もなく大きな傷のために、ディーへの接し方に苦しむセラ。このふたりの和解、あるいは新しい関係の築き直しなんていうのは、簡単にできるはずもなく、出会ったばかりのふたりの幼さの残る笑顔がどうしようもなく懐かしく思えてきます。そして、セラとサクラの関係も、根本的な部分を打ち明けられないサクラの態度が、また火種を残したような……。

錬の兄姉の真昼、月夜のふたりも、ようやく見せ場到来の予感。魔法士ならずとも、それぞれの舞台で、決して劣らぬ力量を見せつけ、特に真昼とサクラのアンバランスな会話とかはひとときの安らぎみたいな場面でしたね。真昼がサクラに抱く感情とか、そもそものサクラの出自とかが、また因果なものっぽいのでこれからどういう展開を見せるのやら?

にしても、いろいろな設定が次々に披露され、主要人物も物語の中心へと誘われている感じ。ファクトリー製最後のひとりの魔法士・幻影No.17・イルも下巻で本領発揮ですかね。両陣営のどちらも、譲れないもののために戦っているから、激突回避は不可。重い展開が予想されつつも、盛り上がりへの期待は抑えきれませんね。

hReview by ゆーいち , 2008/04/23

ウィザーズ・ブレイン〈5〉賢人の庭〈上〉

ウィザーズ・ブレイン〈5〉賢人の庭〈上〉 (電撃文庫)
三枝 零一
メディアワークス 2005-05