断章のグリム〈7〉 金の卵をうむめんどり

stars 満たされるわよ? 敵意と敵意の与え合いは。まるで激しいキスのよう

これは、ごく「普通」の〈泡禍〉に巻き込まれたひとびとの物語。〈ロッジ〉が解決していく、当たり前の災いの物語。神が悪夢を見るのなら、その写し身である人間が悪夢を見ないはずがない。そこから生まれる泡禍は小さくても、確実に災いを呼ぶ。それは幾百もの寓話の集成、最古の童話の形を借りて……。

今回は、イソップ童話。もう、タイトルとの乖離には、突っ込んじゃいけない気分になってきましたが、短編集です。

最後に収録された表題作でもある「金の卵をうむめんどり」は、今や雪乃の背後霊と成り果てた、風乃の幼き日の姿を描いています。多分、これが本命。現在の、狂気を固形化したような風乃の印象とは少々異なり、自分の存在の特異さ、世界への相容れなさへの苦悩などが滲んでいましたが、この物語を経て、辿り着いた結末がああいった形だったというのは、風乃自身も実は望んではいなかったのかなあとか思いました。とはいえ、悪霊的存在となってしまった彼女は、これからも雪乃や蒼衣を泡禍との戦いに問答無用で導いていくだろうし、その先に救いがあるとも思えないので、なんともやるせない過去譚でしたね。

それ以外の短編も、これまでのような大規模な泡禍ではなく、日常的に生まれてくる絶望や渇望だったりの形を変えた姿で、けれど個人に襲いかかるそれの凶悪さとか醜悪さとかは、だからといって温いわけでもなく、やはり怖気を催しますね。ただ、それが狂気に基づいたものではなく、比較的救われそうな感情に起因している事件のせいか、物語の後味自体は、これまでのような陰惨なものではないのが不幸中の幸いというか。

ともあれ、相変わらずの痛々しい描写は健在。これからどういった方向に進んでいくのか気になりますね。風乃が雪乃に囁く言葉も敵は泡禍だけにあらずな予感を抱かせますが、果たして……?

hReview by ゆーいち , 2008/04/28

断章のグリム (7)

断章のグリム (7) (電撃文庫 (1574))
甲田 学人
アスキー・メディアワークス 2008-04-10