“文学少女”と神に臨む作家 上

2013年4月18日

stars 忘れないでください。自分が遠子姉の作家だってこと

二月に入り、遠子先輩の卒業は刻一刻と近づいてきている。心葉はななせと付き合い始め、けれど、ふとしたときに心葉の脳裏には遠子先輩の顔が浮かび、そのたびに胸を刺すような痛みを覚える。別れを思わせる言葉を発する遠子先輩。心葉とななせの仲を裂くために行動するという流人。心葉と不思議な文学少女との物語の最終章が始まる。

ついにやって来てしまったラストエピソード。物語は遠子先輩の確信へと迫り、彼女自身の出自や境遇が少しずつ明かされてきています。いつも笑顔を絶やさずに、心葉を元気づけるかのように振る舞っていた彼女の触れることのできなかった部分に、心葉はついに手を伸ばしていきます。それは、心葉自身が心から望んだことではなく、流人の遠子先輩を想うがあまりの暴走とも取れるような独断の結果ではありますが。

ななせとの日常は心葉にとってどういう意味を持っているのか。ようやくひとなみに恋愛をしようと思えるようになった心葉と、彼を必死につなぎ止めようとしたり、心葉の言動にいちいち嬉しがったり恥ずかしがったりするななせの姿があまりに距離が離れているように思えて、ふたりの結末がどうなるのかというと、明るいシーンが想像できないんですが。これまで、いじらしく心葉を想い続けていた彼女なだけに、心葉は過去にも、流人にも、そして遠子先輩との関係にも、しっかりとけじめを、あるいは決別を果たさなければならないと思いますが、彼の決意をあざ笑うかのような流人の行動は、一途を超えて狂気の域に踏み込んでいるのが恐ろしいですね。

遠子先輩の両親の過去。彼女の母の手紙と親友の手紙に綴られている両者の思いの温度差に慄然とさせられます。未だ明かされない真実が、些細な気持ちのすれ違いから生まれた悲劇なのか、あるいはどろどろとした感情ゆえに生まれてしまった愛憎劇なのか、あるいは……。

幸せな結末というのがなかなかに想像できない展開で続いてしまいましたが。憂いに満たされたままの遠子先輩がこの物語の結末に笑顔でいられることを願いたいですね。

hReview by ゆーいち , 2008/05/03

“文学少女”と神に臨む作家 上

“文学少女”と神に臨む作家 上 (ファミ通文庫 の 2-6-7)
野村 美月 竹岡 美穂
エンターブレイン 2008-04-28