Web小説 / A Change Of Seasons

いろいろお世話になっている紅茶さんがオリジナル小説『A Change Of Seasons』を公開されました。かなりのボリュームで読み応えがありますのでご紹介、というか、感想が長くなったのでエントリで書いてしまいました。半ば私信ですが興味を持たれた方は是非読んでいただければー。

stars 世界が全て貴方を許さないだとしても、信じないのだとしても。わたしは、ゆるします。そして、貴方を信じます――だから。何も信じないなんて、言わないでください

助手の少女・灰村弥生と共に探偵業を営む柊匠の元へ人捜しの依頼が舞い込む。世間を騒がす連続殺人犯『胡桃割り』を復讐のために捜し出す、そんな無謀な依頼を軽くあしらい、しかし匠は予感を抱く。この事件といずれ訪れるであろう『選別』との関連を。そして、『胡桃割り』と対峙し、予感は確信へと変わる。すなわち、十二人の聖別者たちによる戦い──ステアウェイが日本を舞台に開幕するという確信へ。

スティグマタと呼ばれる組織によって選定された十二人の聖別者たる少年少女によるバトルロイヤル──ステアウェイへの参加を運命づけられた柊匠と灰村弥生の物語。

設定が緻密に練り込まれていて、用語などにもそれが反映されているため、基礎となる部分の知識――キリスト教関連など――要求されそうな部分もあり、そこがハードルに感じたりするのは、ある意味読者を選びそうな作品です。その辺の意味を理解していると、多分キャラクターたちの会話とか行動、そし引用される言葉たちへのもう一段上の理解が得られるのかもしれません。私はやはりその辺の知識が薄いので、言葉を整理しつつ読み進めていきましたが、物語の根幹にある聖別者の戦い、ステアウェイのルール自体はシンプルなので、終盤のバトルなどは素直に楽しめました。

かつての聖別者候補だった匠は、とある事件への介入で自らの能力を大幅に失い、現在の聖別者である弥生の介添人として、今回のステアウェイに関わっていく形に。主人公らしい活躍のシーンは終盤のとある局面での戦いが主ですが、過去から現在に至るまでの、彼の道程は血に塗れ、道具として使い捨てられ何者をも救えなかったという絶望に折れ、大切なひとを失うという救いのないもので。

そして、一方の弥生は、自らに抱えたハンディを、戦いに身を投じることを条件に克服する可能性を得るという、なんとも悪意じみた運命という強制力による選択ですらない決定を進んで受け入れて。その行動の根にある匠への想いと、匠が彼女に向ける優しさの一部が彼女の中に見出した他の誰かの面影だというすれ違いはあるけれど、弥生の匠へ向けるひたむきな信頼が、少なからず彼の気持ちを変えていったのかな?

他にも登場人物が多い多い。未だ見えない他のステアウェイの参加者たち、匠との切れぬ因縁を持ち今や敵対していそうな惑、匠とは幼馴染みという関係だけれど、一筋縄ではいかない夜羽だったり。意味深なエピローグと、戦いのシステムと目的への根源的な疑念だったり、謎が山積状態。生き残りを賭けた戦いも始まったばかり、戦いの果てに何かを得ることができるのか、あるいは別の何かを求めるのか、どういった展開を見せるのかに期待。

……あと、何気に不幸な境遇になってしまった葉月嬢はどうなるんでしょう。結構フラグ立てられてますが、こういうバトルものに巻き込まれた一般人て、なんだかひどい目に遭ったりして、まずは生存競争に勝ち抜かないといけないってのががが。不器用だけれどまっすぐに好意を向ける弥生を受け入れたら犯罪だけれど、その答えは出せるのだろうか。所々のいちゃラブ描写はにやりですよ。

「……額でなくても、良かったのにです」とか、もうね、

[tegaki]くはああああ~~[/tegaki]

hReview by ゆーいち , 2008/06/17

A Change Of Seasons
紅茶の人/HOTEL OF HILBERT
2008-06-15