オイレンシュピーゲル 肆 Wag The Dog

stars だから、あたしは大丈夫だ。あたしたちは絶対に、仲間を殺したりなんかしない。

旅客機の占拠から始まる新たなる事件。亡命を求め着陸する中国最新鋭の戦闘機、空港内で人質を取るテロリスト集団、そして中国の暗殺部隊〈蟲〉。レベル3の特甲により与えられる力、失われる記憶に恐れを抱きながら、涼月は事件に向かい合う。敵はレベル3を基本装備とする特甲猟兵。過ぎた力を与えられたその手で、涼月は何を掴むのか。

こちらも負けず劣らずの面白さ。両サイドで起こった事件が密接にリンクして、ひとつの大きな物語の全容を描くという手法はこれまでと同じながらも、その密度と内容に圧倒されることひとしきり。なんだ、このとんでもない物語は。

自分という存在の不安定さと特甲レベル3の力、人格改変プログラムにより引き起こされた過去に怯えにも似た感情を抱く涼月。電話越しに凰と会話しつつ、あの会話の裏では彼女がこんな劣等感に打ちのめされていたとは想像も出来ず。それを冷徹に指摘するパトリックの大人さだとか、漠然と MPB の隊員として動いていた涼月がようやく目的を持って動けるようになったことだとか、この事件はやはり大きく彼女たちを成長させていってますね。それが強さに繋がり、レベル3をすら御しえるのか、今後さらに加熱していく戦いの中で答えが示されるのでしょうか。

陽炎は、今回のエピソードで一番ひどい目に遭わされたような。ミハエルとの関係は、なんだか少しずつ前進しているように見えますが、なかなか踏み込めませんね。あるいは、踏み込ませないのか。乙女な感じの陽炎と、とにかく格好いい大人なミハエルの対比は見ていて微笑ましい気持ちになりますが、容赦ない世界だけに気持ちが伝わる前に取り返しのつかない事態が起きないか、そんなことが心配です。

そして、夕霧と白露の通じ合えていそうで、別たれてしまった道は、もう修復不可能なんですかね。伸ばした手を取りたくても武器しか握ることのできない手では、彼女の手は掴めなくて、結局戦場で夕霧の手を掴み、彼女を助けたのが、凰であるということ。その事実が、夕霧が生きるべき世界、身を寄せるべき誰かを示しているような気がします。

にしても、4巻はどちらも合衆国の野郎共が良い役割を見せてくれてますね。皮肉で子どもたる涼月や凰を焚きつけつつ、しっかりと道を指し示し、導いていく、この出会いが、彼女たちの抱いていた漠然とした未来に、何らかの形を与えたように思えてなりません。こういう出会いを通じて、だんだんと成長していくんだろうなあ。

てなことで、こちらのエピソードも何と燃えたことか。今後リンクがさらに深まり、6人の共闘が見られたりしたら、感動ものだろうなあ。

hReview by ゆーいち , 2008/07/04

オイレンシュピーゲル肆

オイレンシュピーゲル肆 Wag The Dog (角川スニーカー文庫 200-4)
冲方 丁
角川グループパブリッシング 2008-05-01