狼と香辛料〈9〉 対立の町・下

2008年9月26日

stars ぬしは口だけの雄ではありんせん、とわっちに言わせてくりゃれ?

『狼の骨』の情報を求め訪れたケルーベの町はにわかに騒がしくなった。陸揚げされた伝説の海獣・イッカクは、南北の対立の構図を大きく書き換えるだけの価値を秘めているためだ。その利益を独占しようと目論むエーブに商会を裏切るという提案を受けるロレンス。そして商会の幹部・キーマンはそんなロレンスをエーブとの交渉の仲介人として利用するために協力を要請してきて……。

大きな商戦に初めて臨むロレンス。その場を仕切る格上の商人たちにとっては、ロレンスも駒の一つでしかなくて。そんなことを自覚し、荷が重いと尻尾を巻いて逃げ出そうとするロレンスの、尻を蹴るのはやっぱりホロ。辛辣に、挑発的に、馬鹿にするようにロレンスをけしかけるけど、それはホロなりのロレンスへの期待の表れの裏返しだったりと。相変わらず、本音を言葉にしないで、言葉の裏に気持ちを潜ませ大人の会話をするけど、その様がどんどん円熟した感じなっていってるのは、もはや気持ちの中では完全に夫婦だよなあ、と。

様々な商人たちが、利益を得るためにしのぎを削る巨大な戦場。キーマンとエーブという、ロレンスにとっては敵うべくもない商才のふたりに対し、ロレンスなりの意地でもって一矢報いようとしたところで、キーマンらの目論見を覆す展開が待っていて、というのは、久方ぶりに熱い展開ですね。真意を悟らせないのが商人のスキルならば、それを誰よりも発揮したレイノルズは、負け組臭漂わせていたあの姿さえ、すべてを欺くためだった? いやはや、誰も彼も一筋縄では行きませんな。そんなレイノルズのトリックを明かし、一気に逆転に持っていった終盤の流れは燃える燃える。久方ぶりに商人としてのロレンスの活躍が見られたかも。

そして、エピローグのシーンは、なんともにやけてしまう美味しいシーンですね。エーブの行動に対して取ったロレンスのささやかな抵抗。それが誰に対してか、なんてのは言うまでもないけど、その後の語りたくもないというホロとのやりとりは、想像するだけでにやにやしてしまいますねえ。間に挟まれたコルには、まだ早い大人の修羅場が展開されたのか、それとも、甘い甘い言葉でご機嫌と取ったのか、どっちに行ってもロレンスはご愁傷さまといたところでしょうか。

さて、ようやく次の舞台が見えてきましたが、今度は海を渡る? まだまだロレンスたちの旅路は続くようですね。

hReview by ゆーいち , 2008/09/07

狼と香辛料 9

狼と香辛料 9 (9) (電撃文庫 は 8-9)
支倉 凍砂
アスキー・メディアワークス 2008-09-10