聖剣の刀鍛冶 #3 Fool

2013年4月18日

stars 死なない。誰も死なない。全員生きて帰る。それが“全てを救う”ということさ。

灰被りの森で野草の採集をしていたリサとルークは、異形の怪物に襲われた。全身から剣を生やした人外。街で多くの被害を出したそれを倒すため追いかけてきたセシリーとアリアは、『爪痕』と呼ばれる亀裂へと落ち行くリサを助けるために、その身を躍らせる。

緊張感高まる世界の中で、自らの信念だけを貫くために懸命に戦うセシリーに訪れる大きな挫折。信じてきた世界に裏切られる絶望と、どうしようもない理由で折れてしまう心。主人公が女性キャラであるからこその、バイオレンスなシーンはちょっと意外、というかここまで描く意気込みの作品とは思わなかったですね。

ルークとリサ、そしてアリアとの出会いは、セシリーにとって大きな転換をもたらしてきてます。それは、その三者にとっても同様で、それぞれが抱えていた、打ち明けることのできなかったような負の側面を、互いに明かすことができるくらいの強さをもたらしてくれてもいます。ルークとリサの関係の改善もそうで、それはルークが一方的に感じていた引け目かもしれないけれど、それをリサとともに分かち合い、心を明かすきっかけを生んだのは、ひたむきに自分の生き方を貫くセシリーの言葉があったから。

そして、今回はそんなセシリーも、皆に支えられていることが、彼女にも理解されるお話。自分の力を信じ、信念を貫けると思い続けてきたセシリーにとってのどうしようもない挫折。明確な悪意と敵意と圧倒的な暴力に為す術もなく刻まれてしまった心の傷を乗り越えるためのお話。大きく変わろうとしている世界の中で、誰も彼もが当然のように変わらずにはいられないくて、独力で乗り越えられない壁があるなら、誰かの力が助けになる、誰かが助けてくれる、これまで彼女がしてきたように、そんなことに気付かされるお話でもありましたね。

世界的な危機感が高まる中で、その中で思惑を張り巡らす帝国の、シーグフリードの動向は気になるところですが、それに輪をかけ、ルークの身に起きている異変がなんとも不吉なカウントダウンに思えてしまいますね。少しずつ歩み寄っているセシリーとルークですが、ふたりの間にはまだまだ飛び越えなければならな溝があったりで、ラストシーンは良い感じなんだけれど、すんなりと幸せには手が届きそうにないですね。

hReview by ゆーいち , 2008/09/27

聖剣の刀鍛冶 #3

聖剣の刀鍛冶 #3 (3) (MF文庫 J み 1-11)
三浦 勇雄
メディアファクトリー 2008-09