されど罪人は竜と踊る〈4〉~Soul Bet’s Gamblers~

stars 世界があなたを奪ったのなら、私は世界を灰に変えてやる。

ジヴーニャはガユスの元を去った。ウォルロットに破れ、ジヴを奪われたガユスは失意のままエリダナを彷徨う。しかし、新たに現れた〈古き巨人〉エノルムの本隊・五体による指輪を巡る闘争は激化の一途を辿り、憂国騎士団のダリオネートへの反抗と相まって状況は混迷の色を深めていく。〈古き巨人〉の恐るべき目的とは? そして、ダリオネートが仕掛ける経済闘争がもたらす結末は?

半端ない分厚さと、どこまでもインフレする戦い、そして全てをひっくり返し、希望もなにもなくなるような真相、と非常にされ竜らしい展開の、前巻から続く〈古き巨人〉との闘争の完結編。

ガユスとギギナが巻き込まれたのは、〈古き巨人〉や勇者ウォルロットとの戦いのはずなのに、それが多国間に渡る巨大な陰謀の中心であり、そしてそれがまた、全く無関係に見えていた資産家ダリオネートのマネーゲームともリンクしているという、油断すると流れを見失いかねない激流ともいうべき怒濤の展開。

分厚さ以上に密度は濃いわ、ラボたんらしいグロ描写は健在だわ ((でも旧シリーズのアレに比べればまだまだ……?))、なんかリアルでこんな状況にある国があるんじゃね? 的な経済の描写とか、とにかく見所が多くて一気に読んでしまいましたね。

ガユスにとってはエリダナや、街を含む国家の安定よりもジヴを失いかけたことの方が重大ごとで、嫉妬に燃えウォルロットと対峙したり、自分の力が彼に及ばないことを理解し、プライドを曲げてジヴを守るために共闘を選んだりと、随分と大人な対応をしてないですか? 前シリーズに比べてヘタレ度が増したかと思ったら、意外に真人間度も増しているような気がします。むしろ、今回のエピソードでは、ガユスを守るためとはいえ、ジヴの裏切りとも取れるようなウォルロットへの想いがあったわけで、逆にかわいそうとか思えてしまったり。この事件が、ふたりの間にしこりとなって、今後の関係に影響を与えていくのかな。

……にしても、〈古き巨人〉たちの戦いっぷりはスケールがでかすぎて訳が分からないですね。前巻でも大概にインフレしきったかと思ったら、そんなの序の口だったという。今後登場するかもしれない、さらに上位の存在たちに、まともに対抗できそうなキャラは、ホントに翼将くらいしかいないんじゃないかという気がして仕方がないですね。オキツグとかは短編で巨人族あっさりと屠っていたし、彼の実力は今回の敵との対峙でも見ることはできませんでしたが、器のでかさだけはひしひしと感じられましたね。

で、物語のオチがなんとも切ない。なんか、人生の落伍者の代表的なカスペルのあまりの救われなさと、その最期に憐れみの気持ちが……浮かばないな。そして、ダリオネートという男の真実にも驚かされ。国を傾けるほどの力を持つ金を操ったダリオネートすらも、さらに大きな世界という枠組みの中では、運命を動かすための歯車に過ぎなかったのではないかという戦慄と、全てを見通すかのようなモルディーンの慧眼。さらに物語に大きく絡んできそうなバッハルバ大光国光帝の存在。今後はさらに国家間の思惑にガユスたちが翻弄されていくのでしょうか? ガユスの持つ「宙界の瞳」も、本格的にその価値を発揮してきそうな予感。いったいどうなる?

hReview by ゆーいち , 2008/10/28