ダブルブリッド〈2〉

stars 自分のピンチに、どこからともなく誰かが現れて助けてくれる。……そんな都合のいいこと、あるわけないって思ってた。

あの事件から2週間。優樹と太一朗の生活は束の間の平穏を取り戻していた。とある日の夜、居酒屋でくだを巻いた太一朗を背負い帰る途中、優樹は首筋に血を付け、記憶の曖昧な女性に出会う。不審に思いつつその場を通り過ぎた優樹だが、翌日、浦木より告げられたのは、オーストリアより吸血鬼が密入国してきたという事実だった。帰りの道中、件の吸血鬼・フレドリック・アシュトン・クロフォードと居合わせてしまった優樹は、彼と勝負をすることになって……。

前巻の血で血を洗うような闘いとはうって変わって、なんだかまったりとした事件に巻き込まれてますね。といっても、当事者はそれどころじゃなくてヘタすりゃ血を吸われすぎて死んでしまうと、退治され殺されてしまうとか、そんなレベルなのですが。

吸血鬼・フレドリック・アシュトン・クロフォードにより、優樹の血を吸うか、あるいは彼が日本の法に従うかを優樹が逃げ、フレッドが追うという鬼ごっこで決めることになり、そこに蚊帳の外に置かれていた太一朗が絡んでくるという構図。

人間である太一朗と、人外である優樹やフレッドの価値観の違いが少しずつ明らかになってきていて、そこに理解しようと思っても超えられない壁の存在を感じますね。同族を大切に思い、人間を手に掛けることを何とも思わない怪としての部分と、それとは逆に太一朗に自分の過去を明かし、友と認められる人間の部分を持つ優樹。太一朗が触れることができた部分は彼女という存在のどの部分だったのか、彼が触れたいと思った優樹という存在と、彼女が許した部分はまた違うのではないかという違和感が残りますね。

ふたりが互いに抱いている“情”の違いが、はっきりとしてきたラスト。人間の抱く深い愛情を理解しきれない優樹は、太一朗と今後どう向き合っていくのでしょう。

かつて六課に所属していた大田と浦木の因縁めいた関係とか、まだ登場してない人物たちの影も見え始め、これから大きく物語が動いていきそうです。

hReview by ゆーいち , 2008/11/23

ダブルブリッド〈2〉

ダブルブリッド〈2〉 (電撃文庫 (0436))
中村 恵里加
メディアワークス 2000-05