百億の星にリリスは祈り―黄昏色の詠使い〈8〉

2009年1月10日

stars ……ずっと怖かったの。わたしの気持ちがなんなのかって。

ミクヴァ鱗片を巡る争いの最中、ネイトはついにシャオと出会う。シャオは問う、名詠門チャネルの先に何があるのか、と。シャオは語る、名詠式に、セラフェノ音語に、そして世界に隠された真実を。クルーエルは知る、自らとアマリリスの存在の意味を。そして、決断する自分が何を望み、何を願い、どこへ行くべきかを。

思わせぶりにこれまで断片的に語られてきた、この世界の秘密が一気に明かされていきます。前巻で、ミクヴァ鱗片を巡る、シャオ一派と、イ短調・ネイトらの対決の構図が示されて、いざ激突! かと思いきや、そこから延々と解説モードに入るのはさすがに微妙かとは思いましたが。

ということで、そんな設定解説編が前半の大半を占めているので、実際に物語が動くのは後半からという形になります。

大きな見せ場はやはりオシリスとファウマの対決ですかね。直接ミクヴァ鱗片を確保すべく競闘場に赴いた競闘場の覇者であるオシリスを待ち受けていたのは少女然としたファウマ。どちらも超絶的な実力者であることから、その戦いは苛烈を極めるインフレぶりですが、その決着は意外な形に。互いの認識していた勝利の形が違ったことによる、痛み分けみたいな結末でしたが、むしろこの戦いを彩ったのは、加勢することもなく、オシリスの戦いを見守り続けたシャンテの思いだったのかも知れませんね。オシリスとファウマによって、自らの在り様を良くも悪くも変えられてしまった彼女だからこその内面の描写が良かったですねえ。

他方で展開していたエイダやレフィスの戦いも、それなりに見せ場はありつつも勝負はおあずけ状態? 相手に一枚上を行かれてしまった形になってますが、これはもう相手が悪かったとしかいえないような……。内面が未成熟な少年や少女らしいあしらわれ方でしたしね。

そして、物語の、世界の中心にいるクルーエルはその場から動くこともできず、最後の最後で自分の気持ちをようやく自覚します。それは、シャオと話し、世界の真実を知ったネイトも同様で、シャオの望みが叶った結果もたらされる世界が、優しく穏やかであろうとも、すべてをなかったことにするという、どうしても認めることができない結果に立ち向かうことを選ぶわけで。

しかし、シャオは世界に生きる人間を愛する意志法則体と同様に、確信的に平和な未来を作るために、今の悲劇と犠牲を肯定して行動してるなあ。ある種の狂信的な行動に思えてしまいますが、やはり世界の根幹に在るものの影響なんでしょうかね。そういった意味では、やはり対極的な立ち位置のネイトとシャオの決着の形が気になりますね。

次がクライマックス、そして物語の一つの区切りがあと2話ってことは10巻で完結なんでしょうか? まだまだ続けられそうな話ですが、とりあえず、今回のエピソードの結末を描く、次のお話を楽しみに待ちたいです。

hReview by ゆーいち , 2009/01/03