電波女と青春男

2009年2月6日

stars 一回も傷つけ合わずに円満なまま終わる関係なんて、絶対ないだろ。つーか、何も始まってない。お前とは、今が初対面だからな。

転校を機に心機一転、青春ポイント獲得ミッションをスタートさせた俺・丹羽真は、しかし新生活初っぱなから躓いてしまった。学校でどれだけ青春ポイント上昇イベントを起こしても、帰宅したら布団ぐるぐる巻き電波女・藤和エリオのおかげで御破算。「地球は狙われている」なんて電波を飛ばすエリオに付きまとわれることになった俺の青春や、いかに?

『みーまー』のイカれ具合とは打って変わって、ずいぶんまっとうな青春ものを書こうとしているような印象でした。ところどころに、作者らしい毒な部分が散りばめられているし、主人公の独白とかは、やっぱりらしい雰囲気をしっかりと残していますが。

待望の(疑似)独り暮らしが実現するかと思いきや、主人公・丹羽真の下宿先には絶賛ニート中かつ強烈な電波を全方位に放射している少女・エリオがいて、よりよい青春時代を送ろうと努力を重ねる彼にとっては、まさに目の上のたんこぶ。けれど、彼女を無視して生活しようなどと思っても、それも不可能で結局は世話を焼いてしまって。

エリオが「こう」なってしまった理由とかはずいぶんとぼかされているけれど、半年間の行方不明に加え、記憶喪失とか、大事も大事な背景を抱えているのに、そこを掘り下げようとしないのはある意味英断とも思えたり。ここ、掘り起こしたりしたら、どんな黒い展開が待っているか分かったものでもないですからね、この作者だと。

真がエリオを日常の世界に引っ張り戻す方法は、ショック療法も良いところで、これが若さか……とか思いつつも、遠回りをしての自己紹介に至るまでの流れは好きだなあ。お互いがお互いを見ていなくて、物語の最後でようやくスタート地点に立てる、それはボーイミーツガールな物語のお約束でもありますが、奇抜なキャラで味付けされると、これもまたありだなあと思えますね。

そして、真の周囲の女性キャラもなんとも良い味。同居の叔母さん・女々さんはどこまで本気か分からない態度で真を翻弄して、母親としてはエリオへの態度がずいぶんと屈折していますが、それでも彼女は母親ですねえ。まぁ、そうすると、真への接し方の裏を読みたくなりますが、イラストとか見ると道踏み外してもいいんじゃね? な可愛らしさもあったりするので厄介ですねえ(笑) 初ハグ奪われたり、もはや真は彼女に頭が上がらなそう。

クラスメイトのリュウシさんとか、名前不詳な前川さんも素敵。てっきりリュウシさんルートとか思ったら違ったのですが、彼女との会話も良い感じに気が抜けて楽しかったですね。真的には彼女と仲良くなるなんて野望もこれから抱きそうだし、青春ポイントの大幅な貯金のためには、ぜひとも素敵な思い出作りをこれからしていってほしいところ。前川さんは……謎すぎですね。こういう微妙に正体不明な女性キャラが出てくるのもお約束ではありますが、真の生活を引っかき回す存在としてこれからも活躍が期待できますね。

エリオの社会復帰への道はまだまだこれから、お話的に続くのかな? 続きが出たらそちらもしっかりチェックしたいです。

hReview by ゆーいち , 2009/01/27

電波女と青春男

電波女と青春男 (電撃文庫)
入間 人間
アスキーメディアワークス 2009-01-07
Amazon | bk1