Kaguya〈4〉月のウサギの銀の箱舟

2009年5月20日

stars だから、ゆうひもがんばってください。みんなを許してあげてください。好きになってあげてください。誰かにやさしくされたいのなら、誰かにやさしくしてあげないとだめなんです。世界に愛されたいのなら、まずは自分が世界を愛してあげるんですよ。そうすれば、きっといつかわかってくれますから……。

ふたりの繋いだ手の間に生まれたアルテミスコードを研究するために、菜々子から“ずっと手を繋いでいる”ことを命じられた宗太とひなた。寝るときも食事のときも、お風呂のときも、といくらなんでも色々とマズくないですか? そして、そんな生活の最中、新しいアルテミスコードが突然変化を引き起こして……!?

[tegaki]嬉し恥ずかし新婚生活!?[/tegaki]

前巻の事件で宗太とひなたの間に生まれたアルテミスコードの謎を解くために、無理矢理に四六時中手を繋がされることになったふたり。同居生活はそれなりに慣れてはいても、過剰なまでに密着した生活はお互い初めてで、嬉しいやら恥ずかしいやら。お互い、プライベートで他人には見られたくないところまで共有しなければならなくなったシチュエーションは、ハタから見ればなんてラブコメとも思いますが、宗太とひなたにとってはドキドキしっぱなしの蜜月のようで、くそう、なんだこの新婚カップルは、けしからん!

そうこうしているうちに、既成事実まで生まれてしまって、さあ大変。チャイルドコード、ゆうひと名付けられたふたりの愛の結晶(?)まで登場して、子どもに付きっきりになる男親に対するひなたの嫉妬炸裂っぷりもかわいいやら微笑ましいやら。今まで誰よりも宗太の近くにいたという自負が、彼女の今の居場所での拠り所になっていたふしもありますから、その領域を侵犯しようとするのが例え我が子でも心穏やかではない、なんてのは、成熟しきってない少女な彼女の内面の、新しい一面を見せてくれるようでもありましたね。

そして、急展開の中盤以降。人類とアルテミスコードの間に横たわっている深く広い溝が体現したかのような男・竹中伸三 ((あんまり関係ないけど、竹中のイメージが無常矜侍にダブってしまって困る……。))。人類と相容れない存在に対するものへの恐怖と敵意に凝り固まった彼の取る非道な行動は、これまた残酷に宗太たちを打ちのめして。味方だと思っていた黒田たち、大人の力に頼れない状況におかれても、たったひとりのゆうひを救うために戦うことを選ぶ子どもたち。誰かにとっての希望となるために傷つくこともいとわず、痛みを正しく伝えるために、間違いを間違ったままにさせないために、幼いゆうひに相対する宗太とひなたの願いこそが、彼女を決定的に人間たらしめる契機になったんじゃないでしょうか。

けれど、世界はまだまだ優しくはなってくれないようで。アルテミスコードを追う側から一転、追われる側になってしまった宗太たち。仇敵ともいえる銀の箱舟へと至ってしまった彼らは、これからさらに過酷な真実というものに晒されそう。ひとの心を動かすものはひとの心であるという傍観者・杏奈のその言葉が、真に世界へ届くのか、宗太たちにとっての幸福を、世界が与えてくれるのか、物語はいよいよ佳境のようですね。

hReview by ゆーいち , 2009/05/19

Kaguya〈4〉月のウサギの銀の箱舟

Kaguya〈4〉月のウサギの銀の箱舟 (電撃文庫)
鴨志田 一
アスキーメディアワークス 2009-05-10
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