狼と香辛料〈11〉Side Colors2

2009年6月11日

stars ご決断ください。このまま毟られ、盗られ、足蹴にされ、泥にまみれたまま生きていくのか、さもなくば自らの力で立ち、歩いて進んでいくのか。

短編集第2弾。このタイミングで出すことに意義があるようなエピソードも収録。欲をいえば9巻の後にこの話が来てた方がすっきりするのかも。

ホロとロレンスのいちゃいちゃっぷりをこれでもかと見せつけるふたつの短編『狼と黄金色の約束』『狼と若草色の寄り道』は、もうお腹いっぱいになりそうな感じ。お邪魔虫がいない道中はこんな感じでいちゃいちゃしやがっていたのか、このふたりは! 本編でやられると歯の浮くような展開も、こういう短編ならばこそ許せようというもの、というか、相も変わらずキャッキャウフフするようなこのふたりに付ける薬はないものか?

まぁ、そんな甘ったるいエピソードの後にはエーブがエーブとなったエピソード『黒狼の揺り籠』が来るわけですが。

いやぁ、このエピソードはスゴい。久々にこの作品が商人やそれにまつわる駆け引きを描く物語だということを、本編のロレンスの物語以上に突きつけてくれますね。没落し、商人として野に下った少女・フルールが、いかにしてエーブと名を変え、狼の風格すら漂わせるやり手の商人として成り上がっていったのか、そんな彼女の始まりの物語でもありますね。

商人として生きるには甘すぎる貴族的な考えやひとの好さは、海千山千の商人たちにとってはどれだけ食い物にされ得るのか、それに気付いたときにはもはや手遅れで。それは、彼女自身の純粋な気持ちさえも金銭として扱われ、それ以外には価値などないといわんばかりの手痛い裏切りによって彼女の一番深いところに刻み込まれたかのよう。他人を欺き、自分を偽り、そしてときには自らの手を汚してでも金を稼ぐという因業を背負う商人という生き物になるということは、修羅道と等価なのだなと背筋を寒くさせられるような物語でしたね。

このエピソードのどれだけ後に、彼女がロレンスと出会ったかというのははっきりとは描かれてませんが、その変わりようだとか、彼女がひとりでいるということに、少なくない時間の流れを否応なしに実感させられてしまいますね。こんな過酷な経験の上に、あのときの彼女が成り立っているのだとしたら、ロレンスが翻弄されるのもむべなるかな。ひとかどの商人として名を上げるには、あまりに高い壁がそこにあるのではないかと思わされますね。

果たしてロレンスは自分の夢を叶えるために、かつてのフルールのような決断を迫られたときに、どういう選択をするのか、それをほのめかしているかのようですね。まぁ、彼の隣にはホロがいる、それもまた確信的に思えたりするので、そこに彼女の絶望とは違う希望を見いだせると信じたいところですが。

hReview by ゆーいち , 2009/06/06

狼と香辛料〈11〉Side Colors2

狼と香辛料〈11〉Side Colors2 (電撃文庫)
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