有川夕菜の抵抗値

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stars 昔から知っていた筈なんだ。誰かと関われば、いつかそういう事故が起こるって。分かってたはずで、だから私は人を拒んでいる筈だった。だけど、お前達みたいな変人がいたせいで。少し、油断した。迷惑をかけるんだ。私は存在しているだけで。お前達にも、母さんにも、天音にも。

「私は貴様らのような連中が大嫌いだ!」転校初日の第一声でクラス面とをドン引きさせた有川夕菜には秘密があった。彼女は感情が高ぶると身体から電気を発してしまう体質・パラライザーだったのだ。その体質ゆえ、過去に大切な人をケガさせてしまったという過去を持つ夕菜は、同じことを繰り返さないよう、他人を近づけないために虚勢を張り続ける。けれど、この学校にはそんな彼女にちょっかいをかけてくる変人ばかりで……。

この物語は受け取り方によって正反対の評価になりそうだなあというのが読後の第一印象でした。

パラライザーという自身の体質のため、他人を傷つけることを恐れ、そして自分が傷つくことを恐れ、結果として他者を拒絶することで近寄らず近寄らせずを貫いてきた少女・有川夕菜。けれど、彼女が転校してきた高校には、かつてパラライザーであった生徒が起こした痛ましい事故の影響が尾を引いていて。

二度と同じ不幸を起こさないように、生徒会長の末長をはじめ、夕菜のクラスメイトとなった千春や担任の長峰先生たちが夕菜に対してあれやこれやと接触を試みて、それを疎ましく思った夕菜との間で起こる衝突を経ての大団円、と筋だけならまっとうにじんとくる流れの青春ものだったりするんですが、私にとっては特に生徒会の面々の行動原理が非常に理解しがたかったようです。まぁ、これは読者という立場で一歩引いてるからこそ感じる思いなのかもしれませんが。

これって、夕菜が転校してくる前の不幸な事件――夕菜と同じようにパラライザーであった南茜という少女と末長たちとの間に起きたすれ違いを、今度は間違わないようにとやり直してるようにしか思えなかったんですよね。登場人物たちも、それを自覚してるようだし、さらには悪びれもなくそのことを夕菜に語ってみせたり。そういう思いをぶつける方も、ぶつけられる方も、ある意味極限状態に置かれてるので、結果オーライ的に話がまとまってるんですが、一歩どころか半歩間違ってればそれこそ同じ失敗を繰り返していただけでないのかという危うさを感じてしまいます。

もちろん、そんな最悪の展開を回避するために、追い詰められてしまった夕菜を助けるために個々が個々の活躍を見せるんですが、暴走する生徒たちと、それを見守りあるいは毒づきながらも応援する大人たちという構図。後者の、特に校長の手のひらを返したかのような理解者っぷりが微妙にむずむずするんですが、それでもこの展開自体は定番でもあり鉄板のものですね。夕菜の末長への態度の変わりようもまた、正直腑に落ちなかったりもするんですが。やっぱり、末長の行動があまりに独善的すぎて、彼の想いや後悔というものに共感できなかったのが原因かなあ。

と微妙に引っかかりながらも読んでいった、そんな不器用な、ハリネズミたちの物語。途中経過をすっ飛ばして迎えたエピローグは、あぁ、これを描きたかったんだなという幸福な結末。ようやく居場所を見つけた彼女が、どうやって自分と彼らの距離を縮めていったのか、それはまた別のお話だけれど、きっと紆余曲折、傷ついたり涙したりしても、最後に微笑みを浮かべることができている、それが彼女がその場所で過ごして見つけた答えだということはよく分かります。

hReview by ゆーいち , 2009/06/22

有川夕菜の抵抗値 (電撃文庫)

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