『願い』

住宅洋平さんからご寄稿いただいた Kanon SSです。

『夏』

これは遠い遠い昔のお話。

あるところに、一人の少年と五人の少女がいました。

ある少女は体が弱く。

ある少女は記憶を無くし。

ある少女は悪い魔物を退治し続け。

ある少女は必死に何かを探し。

ある少女は少年にひっそりと想いを寄せていました。

五人とも、少年といられることがとても幸せでしたが、そう長くは続きませんでした。

ある日、少女は少年の思い出になり、四人になりました。

ある日、少女が病に倒れ、三人になりました。

ある日、少女が光となって天に昇り、二人になりました。

ある日、少女は自分の居場所へ帰り、一人になりました。

最後の一人が心を閉ざし…。

少年は願いました。

もう一度、少女達に笑って欲しいと。

もう一度、少女達に幸せになって欲しいと。

小さな小さな代償と引き換えに少女達は帰ってきましたが、少年の願いは叶いませんでした。

笑うことはありませんでした。

幸せになれませんでした。

何故なら。

そこに、少年はいませんでしたから。

現実は、あまりにも残酷で。

あまりにも無慈悲で。

暗く静かな墓場には。

少年の名が、しっかりと刻んでありました。

いつの日か、少年は思い出になって…。

いつまでも、少女達と共にあり続けるのでした。

―終―

 

あとがき

「今回語り手を務めさせていただきました、天野美汐です。
一生懸命考えたのですが、暗いお話になってしまいました。
私、性格が根暗なんでしょうか…。
題名に意味はありません。
登場人物の具体名を出さなかったのは、あくまでも作り話だからです。
相沢さんはきちんと生きていますし、女の子も誰もいなくなったりしていません。
辛いのは…。
悲しいのは、お話の中だけで十分ですから」