とある魔術の禁書目録〈19〉

2010年1月22日

stars 良いか。目の前で誰かが苦しめられていたとしても、そこで迷わず武器を握って凶漢をブチ殺すようなヤツは、似たような悪党だ。人の気持ちも考えず、更正の機会も与えず、理に適ってるってだけで人を殺せるヤツは善人なンかじゃねェ。オマエはそォいう野郎になる必要はねェ。そいつは俺の領分だ。俺一人だけがやるべき事だ。

とある魔術の禁書目録(インデックス)〈19〉(書影大)

学園都市の暗部で起きる事件を処理する『グループ』。最強の超能力者レベル5一方通行アクセラレータ、魔術師でもあり能力者でもある土御門元春らで構成されたそのチームは、謎のキーワード『ドラゴン』について探っていた。それが、いまの“クソったれ”な現状を打破する唯一の手がかりであると信じて。一方、上層部に無断で行っていたその活動を煩わしく思う者がいた。その人物は、学園都市で最高の権力を持つ統括理事会メンバーの一人。彼の強大な勢力が、『グループ』に牙をむく。
同じ時。元『アイテム』構成員の浜面と絹旗は、滝壺の見舞いにやってきていた。そこで突然巻き起こる、浜面の「バニーガール超好き疑惑」。どん引きする絹旗と滝壺を他所に、浜面は決死の釈明をするが……!? (15)巻、SSシリーズに続き描かれる、『学園都市の暗部』編登場!

[tegaki font="mincho.ttf" color="DimGray" strokecolor1="Gainsboro" strokesize1="4″]手の中の勇気、握りしめて[/tegaki]

ようやく収束の気配を見せ始めた物語。番外編とばかり思っていた一方通行を主人公とする『学園都市の暗部』を描いたストーリーが、いよいよ上条当麻の物語とふたたび交わるときが近いことを予感させるような展開ですね。そして、ここにきて新たな主人公に大出世を果たした浜面の男っぷりに惚れさせるような物語。もともとこの19巻が、一方通行と浜面の暗部に属しながらも、方や最強の力をふるい敵を殲滅する一流の悪党を自認し、方や自分の無力さを自覚しながらも目の前にあるたったいひとりの少女の危機のために自身の危険を厭わず圧倒的な暴力に立ち向かえる強い心を武器に戦うという、なんとも対照的なダブル主人公ともいえるような構成になっているのですが。

で、どちらの主人公に心動かされるかといえば、やっぱり浜面なんじゃないかなあ。力も後ろ盾も何もないようなどこにでもいる雑魚然としていた彼が、ここまで勇気を振り絞って身を削るような戦いをするとは思わなかっただけに。当麻自身とダブるようなコミカルさと熱血さもあるんだけれど、浜面は本当に何も持っていない一般人に過ぎないのに、滝壺のためだけにその命を投げ出す覚悟で、敵いっこない相手に戦いを挑むなんて、もうね。押しも押されぬ相思相愛ぶりを見せつけてくれた浜面と滝壺のふたりですが、ふたりが赴こうとする場所は、さらに過酷な地球上でもっとも危険な地となっているわけですが、果たしてどうやって立ち回るのやら……?

『ドラゴン』という言葉を追いかけていた一方通行の方も、ついに真相に近しい存在と相対するに至ります。にしても、その存在の圧倒的な力は反則なんて言葉じゃ生温い非常識さですね。未だに余裕を崩さないアレイスターの態度もまた、たとえ最強の超能力者の力を持ってしても、彼の計画の不安要素たり得ないという裏付けゆえなのかも。これまでも何度か打ち倒されてきた一方通行ですが、今回ばかりは自分だけの敗北で許されるような戦いではない、打ち止めラストオーダーの命がかかった後には引けない戦い。最強を誇った学園都市という箱庭を飛び出し、彼もまたすべての力が集い始めているロシアの戦線に参加。あらゆる繋がりを断ち切りつつも、打ち止めの手を離そうとしない彼もまた、その行動原理は至ってシンプルなものなんですよね。かつて上条当麻という男が、ひとりの少女を救うために彼の前に立ちはだかったように、男が戦う理由としてこれほど分かりやすいものはないってことで。

そして、舞台はロシアへ。さらわれたインデックスを救い出すためにそこを目指す当麻。そこへたどり着いた浜面たち。かすかな可能性をたぐり寄せるため、そこへ向かう一方通行たち。物語の主役が出そろい、舞台に上がり、これでようやく真の物語が始まる……って、これまでの前振り長すぎでしたよ! だが、熱い、熱いぞ!

hReview by ゆーいち , 2009/11/23

とある魔術の禁書目録(インデックス)〈19〉

とある魔術の禁書目録(インデックス)〈19〉 (電撃文庫)

鎌池 和馬

アスキーメディアワークス 2009-11-10