さくら荘のペットな彼女

2010年4月8日

stars ねえ、あなたは何色になりたい?

俺の住む寮『さくら荘』は、学園の変人たちの集まり。そんな寮に転校早々入ってきた椎名ましろは、可愛くて清楚で、しかも世界的に有名な天才画家だという。天才美少女を寮の変人たちから守らねば!と意気込む俺だったが、入寮翌日恐るべき事実が発覚する。ましろは、外に出れば必ず道に迷い、部屋はめちゃくちゃ、ぱんつすら自分で選べないし、穿けない、生活破綻少女だったのだ!そんなましろの“飼い主”に任命された俺。って、服とか俺が着替えさせるの!? これでも俺、健全な男子高校生なんですけど!? 変態と天才と凡人が織りなす、青春学園ラブコメディ登場。

[tegaki font="crbouquet.ttf" color="LightCoral" size="24″]さくら荘の愉快な夢見る(ダメ)仲間たち![/tegaki]

学園の変人たちが集う学生寮『さくら荘』。一芸に秀でながらも、その他が壊滅的な生活破綻なダメ人間たちの中に望んでその身を置く主人公の空太。そして出会った少女・椎名ましろ。絵を描くこと以外のあらゆることを自分でこなせない、筋金入りの変人にして美少女な彼女の面倒を、なかば強引に押しつけられ、彼女と過ごすうちに芽生えるようになった複雑な気持ちの行方を描くお話。

空太自身、普通人を自称しながら突出した才能の中に身を置いて、その境遇に悶々とする流れが割と延々と続くのがちょっと苦痛かも。ましろを始め、美咲や仁、龍之介といった、空太から見たら雲の上のような多彩な才能に晒される環境。一番近くでそんな彼らを見ながらも、自分の未来に対して明確なビジョンも描けず、流され、目的も見つけられないというそんなくすぶった感情が、青くもありもどかしくもあり。

結局、苦しいんですよね。ままならない現状、どうやったってかなわない眩しい才能、自分にないものを持っている他人、空太が抱く感情というのは多かれ少なかれ誰もが持っているわけで、作中でもそんな彼自身の気持ちを代弁する仁の苦い表情とか台詞とかが突き刺さってきたりしますね。この辺、想いを寄せる相手が自分より優れ、けれど逆に依存してくるという、ある種の歪んだ関係に、男の子の意地を見せたいという若い感情が見え隠れしたりして、青春だなあとも思えたりしますが。でも、やっぱり根底にあるクリエイターとしての矜持にも共感できるわけで、そんな苦しみを抱えながらも離れられない、離れない、そういう距離を保つことを選ぶ男の子の選択に、がんばれと言いたくもなるのですね。

出会ってからの艱難辛苦、ありとあらゆる面倒を見て、彼女の夢を間近で見て、応援して、挫折をなすすべなく突きつけられ、一心同体ともいえるような時間を過ごしてようやく人並み何歩か手前にまで、ようやくなれたかのような、椎名ましろという女の子。何もない、側にいることしかできない、面倒を見ることしかできない、そんな平凡な男の子である空太という少年が、彼女から受け取った形のない何かを形にするために選んだ選択は、未来にはまた辛い現実というものを突きつけてきそうな気はしますが、ペットのような彼女の一番側にいる少年は、結局はぐちぐち文句を言いながらも、それさえも楽しい思い出に変えていくために、かがいしくも世話を焼いていくんじゃないのかな。

色恋方面ではふたりの間にはようやくそんな気持ちの片鱗が見えたとか、そんな淡い淡い段階なので、これから空太の理性が試されながらも拙くゆっくり進んでいく、あったかい展開も見てみたいですね。

hReview by ゆーいち , 2010/04/04

さくら荘のペットな彼女

さくら荘のペットな彼女 (電撃文庫)
鴨志田 一
アスキーメディアワークス 2010-01-10