灼眼のシャナ〈20〉

stars 戦う、という決断は。そう、きっと間違っていない。

 “紅世の徒”とフレイムヘイズの最終決戦。その勝敗の天秤は、“祭礼の蛇”復活により、“徒”側に大きく傾いた。
起因となったのは、“蛇”と運命共同体である坂井悠二による『大命宣布』。それは、フレイムヘイズ兵団を敗北に追い込むに足る、フレイムヘイズと“徒” 双方の想いを汲み取った、まさに“創造神”たる宣言だった。
宣布直後。
勝機と見た“徒”らは、[仮装舞踏会]三柱臣の一柱・『将軍』シュドナイを指揮官とした包囲殲滅戦を展開する。
圧倒的に不利な状況下で、フレイムヘイズ兵団は、撤退を余儀なくされる。
そして、とある討ち手の命が儚く燃え尽き……。
怒濤の最終決戦、決着間近!

[tegaki font="mincho.ttf"]フレイムヘイズ兵団潰走す!![/tegaki]

現世に帰還を果たした“祭礼の蛇”と悠二によってなされた『大命宣布』により勢いづく[仮装舞踏会]の軍勢と、意気消沈するフレイムヘイズ勢。情勢悪しと見るや、すかさず撤退戦へと移行するあたり、この決戦が単なる戦闘では終わらない規模の激突だったということを思い知らせますね。そして、その撤退策である『引潮』作戦でさえ、シャナたちの力なくしては実現し得ないくらいにぎりぎりの勝負だというところに、勝敗の天秤がどれだけ[仮装舞踏会]側に傾いてしまったのかが分かろうというもの。全世界規模で戦い、支援する者たちの頑張りもあればこその作戦ですが、まさに決死の敗走戦であるわけですね。

戦いの規模が大きくて、前巻では各拠点でめまぐるしく情勢が変化していきましたが、今回は肝となる場所が1~2カ所しかないため、そこでの各個の奮闘ぶりがこれでもかと描かれた感じ。そんないけいけ押せ押せな“徒”たちの猛攻の中にあってさえ、その存在感と、圧倒的な実力を見せつけるシャナの姿が際立ちますね。悠二との激しい戦闘も記憶に新しいですが、今回の心折られかけた戦士たちの言葉でなくその姿で鼓舞する様は、主人公の風格十二分。お召し替えした新衣装と相まってなんとも男前に映るじゃありませんか。

けれど、かろうじて維持できていたはずの戦力としてのまとまりさえも、続く悠二の言葉に打ち砕かれてしまって。戦うことで自らの存在を認めてきたフレイムヘイズたちにあって、その根本が否定され、存在する意味が失われるということは、まさに死に等しいことで。絶妙のタイミングでそんな宣告を下す悠二の胸の内も語られていますが、それによって生まれる死の数が多すぎて、その頑として揺るがぬ精神を見せつけられると、やっぱり翻意は期待できなさそうな感じだなあ。戦いの決着を求めるのか、その先に新生される世界で救いを求めるのか、両者の思いはまだすれ違ったままだけれど、今回の戦争の決着を見てると、この後は軍と軍のぶつかり合いではなく、個と個のぶつかり合いでしかフレイムヘイズ側には勝ち目がなさそうに思えますね。

絶望的な撤退戦の中で次々に倒れていく戦士たち。あらすじを見て誰が消えてしまうのかと戦々恐々としていたら、意外な人物が重要な役を果たして倒れていきましたね。決して無為ではないその死は、変わろうとしていく世界の中でどんな可能性を見せてくれるのやら。自分たちが守るべき世界が「ここ」ではなく「すべて」であることを示してくれた彼の言葉は、戦う意味を見失いかけていたフレイムヘイズたちの奮起を促すに足るものであると思いますしね。

ようやく復活したマージョリー女史も活躍したりと、これまでくすぶっていたキャラたちにも見せ場か用意されていましたね。プロローグとエピローグでなにやら独自に動いているフィレスでさえも、戦いに巻き込まれていくのを予感させるような展開。吉田さんに預けた宝具『ヒラルダ』が、その役目を果たすときがくるのは確実そうだし、フィレスが悲嘆してしまうほどの、受け入れざるほどのヨーハンの意志というのも気になりますね。どちらにも与していないふたりが、この戦局にどのような影響を与えるのやら……?

いよいよ物語は最終章へ突入。舞台は再び日本、御崎市へ。物語の始まりでもあり、そうして終局の舞台でもある彼の地で何が起きるのか。どのような決着が描かれるのか、期待が高まりますね。

hReview by ゆーいち , 2010/04/11

灼眼のシャナ 20

灼眼のシャナ 20 (電撃文庫 た 14-26)
高橋弥七郎
アスキー・メディアワークス 2010-04-10