神さまのいない日曜日

stars ……どうして墓守がいるのか、いまわかった気がします。きっと人は願ったんです。死と、それを見てくれる人を。

十五年前。神様は世界を捨てた。人は生まれず死者は死なない。絶望に彩られた世界で死者に安らぎを与える唯一の存在“墓守”。
「今日のお仕事、終わり!」
アイは墓守だ。今日もせっせと47個の墓を掘っている。村へ帰れば優しい村人に囲まれて楽しい一日が暮れていく。だけどその日は何かが違った。銀色の髪、紅玉の瞳。凄まじい美貌の、人食い玩具と名乗る少年――。その日、アイは、運命に出会った。
「私は墓守です。私が、世界を終わらせません!」
世界の終わりを守る少女と、死者を狩り続ける少年。終わる世界の中で、ちっぽけな奇跡を待っていた――。大賞受賞作登場。

[tegaki]死のない世界を看取りながら[/tegaki]

これはゾンビですか? いいえ墓守です。……大賞ということでむやみに期待値上がっていたのかなあ。当初のあらすじから受けていた印象とはかなり違った感想を抱きます。

神さまに見捨てられた世界、死さえも奪われてしまった世界、命の生まれない世界、そんな世界で死者を看取り、埋葬し、その死を確定させる墓守の少女・アイと突然彼女の前に現れた奇妙な少年・人食い玩具ハンプニーハンバートの出会いから動き出す物語。

淡々と語られていく地の文と、妙に噛み合わない台詞の掛け合いの違和感。後者についてはアイの暮らしていた場所の秘密と共に、終盤で種明かしがされているのですが、やっぱり救いのない世界だなあと。一緒に暮らしていた大切な人々が、死んでなお、死ぬことのできない世界、朽ちていく姿を見続ける苦痛と絶望が続く世界というのは、なるほど、神さまが捨て、救いを廃した終末の姿としては納得のいくものなのかもしれません。

そんな世界で生きていかなければならないひとびとはどうやって生き、どうやって死を受け入れれば良いのか、その答えと神さまの最後の慈悲が墓守という存在の奇跡なんでしょうか。世界が壊れてしまって15年。すでに一旦滅び、完全な滅びの日へと緩慢に生きていく人間たち。そんな世界で、生を見て、死を与え、アイとで会うまで彷徨ってきた人食い玩具と、墓守のくせに死に触れることさえなかったアイの役割の対称性が印象に残ります。その役割がどうやって逆転し、彼女が自分自身の価値を見いだし、その運命を全うしていくことになるのか、物語はこのお話できれいにまとまっているものの、その先を予感させられる終わり方です。

唐突に訪れ、唐突に奪われてしまった時間。神さまに捨てられた世界でどう生きていくのかという問いと答えはどこにあるのやら。一代限りの野望を秘めてアイが向かう先、たどり着く場所がどこなのかわからないけど、希望の持てる未来なんてないようにしか思えないけれど、その視線が見つめる先にある世界はどんな姿をしているのでしょうか。

hReview by ゆーいち , 2010/05/04