円環少女〈12〉 真なる悪鬼

stars それでも、戦う理由。この理由ならいいと思うんです。ほら、わたしたち、縁がなさそうだけど――きずななら、いっぱいあるじゃないですか。

“奇跡”無き地に再演大系の“神”は降臨した。神の“奇跡”は東京上空の核爆発すら封じ込め、街は奇妙な平穏の中、魔法使いたちを受け入れていた。魔法消去の力は弱まり、人の視線でかき消されるはずの“奇跡”が衆目の中でまかり通る。舞花により再演魔術の力を得た聖騎士たちは、神の定める理想のために決戦を画策する―そしてメイゼルは文化祭の“白雪姫”のために帰ってきた! 灼熱のウィザーズバトル、覚醒の第12弾。

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″]神の“奇跡”が世界を覆う[/tegaki]

ついに降臨した再演体系の“神”。現在から決して干渉できない未来という場所から、現在を操るその魔法を、なぜあらゆる体系の魔法使いたちが忌み嫌っていたのか、その脅威が現実のものとなってはじめて実感できたような気がします。こりゃあ、凶悪なんてものじゃないですね。突き詰めればあらゆる存在を、自らの操り人形として自由に操作して未来を作り替えることを可能にする魔法なんて、文字通り神のごとき力じゃあありませんか。

神人としての力を得たきずなと、その力を見事にかっさらっていった仁の妹の舞花。物語の最終局面は、このふたりの再演魔導師の対決の結果がすべてを決するという、この物語の複雑に絡み合った事情からするとシンプルすぎるくらいにシンプルなところに落ち着いてしまいましたね。

再演体系のルールによって塗り替えられてしまった地上においては、数多ある悪鬼たちの魔法消去すらその力を失い、再演体系と対決しようとする仁たちにとっては、もはや手も足も出ないかに思える状況。それでも、自分たちの世界を守るという大義の前段階として、仁が戦う理由は、メイゼルの幸せであり、きずなの幸せであり、彼女たちを幸せにすることによって少しだけもたらされるであろう仁自身の赦しなのかなあと感じられます。世界は知らぬ間に作り替えられていくけれど、その中で自分たち自身を守るために、日常を生き、そして戦いへと向かっていく仁たち。所々で気の抜けるようなコメディな場面があったりしますが、そういうささやかな時間こそ、いつかたどり着きたいと願う平穏なのかもしれませんね。

舞花を引き込んだ神音体系の目的は、揺るぐことのない鉄壁の信仰に基づいた狂信とも言い換えても良さそうなくらいの“神”への執着。その悲願が果たされた現状を覆そうとする仁たちとの対決は不可避なもので、そして、再演体系の力を得ている彼らに対して、仁たちはあまりに劣勢に過ぎます。そんな戦いの中、誘い込まれるように窮地へと陥り、絶体絶命の窮地において、ようやくつながった仁の願いと、きずなの決意。再演体系を巡る渦中で、当事者として覚悟を決める間も与えられず壮絶な死闘を経験して壊れてしまうかに見えた彼女ですが、長い長い苦しみの果てに出した答えは、誰もが望みたくないはずなのに、そう望むしかなかった戦うという選択。仁の覚醒から彼女の登場へとつながる逆転劇は、劣勢が覆る爽快感よりもむしろ、これまで手を伸ばしても届かなかったふたりの指先がようやく触れあうところまで至った、そのことに感慨を抱いてしまいます。

世界の行く末を巡って戦う以外あり得なくなってしまった少女たち。次巻で完結ということですが、決して生やさしい大団円になるような雰囲気はないだけに、奇跡無き地に生まれた奇跡がどのような結末を生むのか、座して待ちたいと思います。

hReview by ゆーいち , 2010/09/08

円環少女〈12〉 真なる悪鬼

円環少女 (12)真なる悪鬼 (角川スニーカー文庫)
長谷 敏司 , 深遊
角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-09-01