剣の女王と烙印の仔〈6〉

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stars 今は確信しています。あなたがたの神々の力はみな、けっきょくのところ、人の心にしか触れられない。どれほどの力であろうと、人の心の中だけに働くものです。ならば――。ならば、人の心は、いつか必ずそれを超えます。

大陸は戦乱に包まれた。「――蹂躙せよ!」突如として開始された冬の国アンゴーラ帝国から聖都への侵攻。そしてサンカリヨンでは、パオラ率いる銀卵騎士団と強敵・王配候ルキウスの激戦が始まった。しかし、いまだ心が離れたままのミネルヴァとクリスの思いは繋がらない。一方、教会を統べる次期総主教選挙に向かったフランチェスカは、“刻印の謎”の深淵に迫り、自らの覇道をゆく決意をする。「あたくしの戦いはもう、将のものではない」「どうして、離れるんだ」「ミネルヴァのためにも」杉井光が贈るファンタジー巨篇、運命に翻弄される少年少女に激動のときが迫る!

神々の力に振り回される人間がいれば、神々の力に負けることなく立ち向かう人間もいる。クリスやミネルヴァ、そしてフランチェスカはこれまでは前者の立ち位置にいたように思います。御することができず、危うくすべてを凍り付かせ砕いてしまいかねないクリスとミネルヴァに宿る神の力。神さえも自らの策略の道具として扱おうという冷徹さを発揮しようとしながらも、実はその重圧に押しつぶされかけていたフランチェスカ。そんな銀卵の主要メンバーたちが、あるいは吹っ切れ、あるいは後戻りできないくらいに運命にとらわれてしまうエピソードでしたね。

ここ数巻、カーラ先生の姿が見え隠れしてきたあたりから、フランチェスカの策による連戦連勝な展開はなりを潜め、代行として立てられたパオラの苦闘が目立っていましたが、当のフランチェスカ自身も、ミネルヴァに自らの弱さを吐露してしまったことが、少なからず影を落としている様子。これまで将としてどれだけの犠牲を生み出そうとも受け入れてきた彼女ですが、ついに、自身の手が血にまみれるときが訪れます。それは、フランチェスカが望む、神の力をその身に宿すために必要な代償ではありますが、運命というものはとにかく人間を苦難へと突き落とすのが好きなようですね。いや、この世界の神々の在り様からして、そういう性格なのはわかりきってはいるのですが。力を得、代償に敗北を味わい、心を痛めつけられ、そしてそれを糧に神への復讐を誓う彼女。国という人間の世界を変えるという目的に加え、見えざる存在への戦いをも挑もうというフランチェスカの心の中には、痛切なまでの覚悟と決意が伺えますね。この敗戦が、これからの戦いに向かう彼女をどう変えていくのでしょうか。

フランチェスカと別の場所で戦いにあたるクリスもまた、自らの内に巣くう獣との関係が変化していってるような感じ。ミネルヴァとともにいることのリスクさえも受け入れて、それでも彼女と一緒にいることを選ぶクリス。悲劇を起こさないという強固な意志と、力を自分のものにしつつあるというある意味では危険な状態を両立させているクリス。死という運命を食らう力を、彼が望む方向へと発揮できるようになりつつある風に見えますが、そのまま飼い慣らされるような神でもあるまいに。ふたりが想いを通じ合わせた告白もまた、その先に過酷な展開が用意されているように思えて身構えてしまいますね。いや、不器用で、ある意味ストレートなクリスの言葉に赤面してしどろもどろになるミネルヴァの精一杯の返事とか、もう、お前らとっととくっつけよというところなんですが、神々の代行的な役割と、ミネルヴァの託宣の力を思うと、すべてが終わらない限り、そういう甘い展開は望めないのかも……。銀卵騎士団の危機はなんとか乗り越え、再びフランチェスカとクリスたちの合流も近そうな感じですが、隣国アンゴーラの侵攻など大陸の情勢は緊迫の度合いを増しているだけに、さらなる苦闘が待っているようにも思えます。

そして、もっとも過酷な運命に身をさらしているのは、ジュリオなのではないかと。シルヴィア救出のために、自分の身体と意志さえも道具として使われることを受け入れるジュリオ。真っ白で清廉だった彼の姿は面影もなく、あらゆる思惑が交錯する国というの歯車の中で、砕かれそうになりながらも、辛うじて耐えているように見えます。王・ティベリウスの器と成り果ててしまったジュリオが口にした、神の力を超える心を、彼はまだ宿し続けているのでしょうか?

さらなる波乱が待ち受けていそうな次巻、どんな展開になるのやら。

hReview by ゆーいち , 2010/11/13

剣の女王と烙印の仔Ⅵ

剣の女王と烙印の仔Ⅵ (MF文庫J)
杉井 光 , 夕仁
メディアファクトリー 2010-09-18
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