断章のグリム〈14〉 ラプンツェル・上

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stars 皮肉が利いていると思わない? 私はここが好きなのよ。この人間の、どうしようもなく愚かで、夢見がちで、そのせいでどうしようもなく皮肉なところがね。

“――彼女の髪に、触ってみたい……”
少女が歩道橋を登り、階段の一番上に、ぺた、と差し掛かった時。突然、ぐん、と後ろ髪を鷲掴みにされた感触と同時に、髪の毛が思い切り後ろに引っ張られた。そして、恐怖とともに堕ちていき――。
いまだ葉耶の悪夢に苦しむ蒼衣は、葬儀屋の件でさらに自責の念に駆られていく。葬儀屋の蘇りにより自我を保っていた保持者が多く、蒼衣は方々から恨まれていた。周囲は蒼衣を休ませようと気を遣うのだが、〈泡禍〉解決の依頼は増えていくばかりで……。そして舞い込んできた蘇りの娘が関わる〈泡禍〉事件に、蒼衣も責任を取るかのように、雪乃と二人で解決に向かうのだが――。
悪夢の幻想新奇譚メルヘン、第十四幕。

落ちて行くことへの恐怖

いやああぁぁ!! 落下することへの恐れっていうのは本能的なものですよね。夢の中でも真っ逆さまに落ちるような思いをすると、思いっきり跳ね起きてしまうことが何回もあったりすると、このエピソードで語られる、転落死というのはシャレにならない怖さをはらんでいると思うのです。

〈葬儀屋〉を自らの能力で殺めてしまった蒼依は、その苦悩から抜け出すこともできず、神経をすり減らし日常からも乖離しようとしている様子。彼がこれまでひたすらにすがりついてきた、普通という世界からすでに一歩外に身を置いている彼は、けれども「普通の良識ある人間」として、他者を殺めてしまったことを反省し、悔やみ、謝罪しようと方法を模索しています。

そんな時に神狩屋さんのロッジに持ち込まれる、腹いせ交じりの嫌がらせとも取れる応援の依頼。大人の小狡いやり口を理解しつつも汚名を雪ぐ機会だとばかりにあえて身を投じる蒼依と、かつての自分の境遇を思い起こし苛立ち交じりに彼に同道する雪乃さん。

そうそう、今回の雪乃さんはひと味違いますね。いつもなら口を開けば「殺す」の憎まれ口な彼女なのに、今回ばかりは蒼依の境遇を多少は思い遣る様子などを見せてくれます。これまでなかなか距離が近づく様子などなかったふたりなのに、傷心の彼に同情しているのではと思えるような姿は新鮮ではありますね。もちろん、他の場面ではいつも通りの容赦のない冷酷さを遺憾なく見せてくれてはいるのですが……。

元をたどれば蒼依の〈断章〉の暴発によって起こってしまった事態。〈葬儀屋〉の喪失が連鎖的に事件の被害を広げているのはやるせない感じではありますね。彼の死者を蘇らせる能力によって、仮初めの平穏をもたらされていた家族が崩壊し、狂気に呑まれていく。今回の物語はそんな悲劇ではありますが、まだまだ序盤だというのが嫌でも分かってしまうため、この程度の惨劇は序の口としか思えないのがアレですね……。

〈泡禍〉によって引き起こされる事件は確かに起こりつつあるけれど、あれ、この程度? とか思っていると、次の巻でとんでもない展開になるだけに油断などできません。グロさよりも心霊写真的な静かな怖さを想起させるホラーなシーンが多かったですが、これを呼び水に、どんどん事態は悪化していくんでしょうね……。

そして、忘れていたのは「彼」の存在。蒼依たちとあれだけ対立しておきながら、どこか臆病な性格を感じ再登場の可能性をすっかり忘れていましたが、彼もまた〈葬儀屋〉によって仮初めの救いを得ていた人物でしたね。いきなり蒼依の後ろに立ち、そこからどんな一手を繰り出してくるのやら。

逃げてー! ちょー逃げてー!

悪夢だけでなく、人間の憎悪さえも向けられる蒼依。もはや逃げ場なんてどこにもなくて、この窮地から逃れる術はあるのやら。そして、いまだに真相へと至っていないラプンツェルの物語を土台にした狂気の宴はどんな様相を呈してくるのか。

次が本当の地獄だ!

hReview by ゆーいち , 2012/01/11

断章のグリムXIV ラプンツェル・上

断章のグリムXIV ラプンツェル・上 (電撃文庫)
甲田 学人 三日月 かける
アスキー・メディアワークス 2011-03-10

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