ウィザーズ・ブレイン〈8〉落日の都〈中〉

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stars だが、これだけは覚えておいて欲しい。この先、君がどうしようもない困難に直面したとき、自分一人の手では人々を守ることが出来ないと感じたとき――そのときは、遠慮無く自分が守るべき人々を頼れ。彼らに犠牲を強いろ。それが、人々を救い、君自身をも救うことにつながる。

シティ・シンガポールと賢人会議の歴史的同盟締結を前に、凶弾に倒れてしまった参謀の真昼。厳重な警備が敷かれた病院に真昼は収容され、刻一刻と調印式の時間が迫りつつあった。様々な勢力の思惑が渦巻き、反対派が更なる妨害工作を仕掛けるなか、果たして調印式は無事執り行われるのか? 真昼の描く魔法士と人間が共存する未来の行方はどうなるのか!?
そして、その一方、賢人会議の代表・サクラは、ウィッテンが書き残し真昼が隠していた地球を覆う「雲」を除去する方法を知ってしまう……。
いよいよ佳境へと進む『ウィザーズ・ブレイン』、第15弾!

ぶつかり合うそれぞれの正義

つまるところ、この物語において明確に悪に分類される存在というのは滅多にいないんですよね。世界が過酷であるがゆえに、人類が生存するためにはマザーシステムの恩恵に頼らざるを得ない。それは、魔法士たちの少なくない犠牲の上に辛うじて成り立つ世界なのですよね。一方で、魔法士たちにとっては、世界の環境はなんとかできても、圧倒的な少数差を覆すことは容易ではなく、逆にそれを何とかしようとすることは、結局彼らが忌避している通常の人間たちと同じ選択をしなければならなくなるという矛盾も孕んでいるわけで。

さて、そうすると、お互いがお互いに容易に歩み寄ることができない膠着状態で、唯一ともいっていい道筋を描こうとしているのが――『賢人会議』。

今巻では真昼の手によって図面を引かれた表と裏の計画が大部分において明らかになったわけですが、この流れは彼にも予想はできていなかったに違いないですね。前巻での暗殺未遂によって瀕死の重傷を負い、身動きも出来なくなり入院を余儀なくされた真昼。一方で、彼と繋がりを持ち、そしてその思惑を理解しシティ・シンガポールに集った各シティに散らばっている実力者たちの手によって、真昼のあずかり知らぬところで加速される計画。人間も魔法士も生き延びるためには互いが互いの存在を認め、距離はあっても共存のために意識を変えていくということ。その遠大な計画が、立場上は魔法士の側である組織『賢人会議』と祐一たちがその場しのぎで作り上げたはずの組織『世界再生機構』の二つが同じ目的のために動き始めたことでようやく勝算が見えてきたといったところでしょうか。

もっとも、その実現に向けて動き出すには目前にあるシティ・シンガポールと『賢人会議』の同盟が成立しなければ始まらないわけで、そのための障害は非常に分厚いといえます。そこに対立しようとする勢力もまた、自身たちの信念と正義に基づいて行動しているため、同盟推進の側との意見は平行線で交わることなく、結局のところぶつかり合うしかなくなってしまいます。

真昼を傷つけ動揺を誘い、時間を稼ぐことで生み出したわずかなほころびに炸裂させる致命的な爆弾。ここまでは反同盟派の自分さえも犠牲にすることを厭わない戦術にしてやられて、ここからの挽回はかなり困難に思えるんですが、この混乱の状況を無事に収めることができるのやら。

かつてのシティ・神戸の壊滅の場で居合わせた人々がここで集い、対立する構図が生きてくるとはずいぶんと長い伏線でしたね。そして、今巻で祐一が語った英雄像がまた、この先の展開を暗示しているように思えます。裏で暗躍する『彼ら』は結局、彼らが救おうとした人々の犠牲を良しとせず、自らの身を削ることで今まで生き延びてました。そして、それを一部英雄視している描写がありますが、それは英雄になり損ねた祐一に取ってみれば失敗なのでしょうね。自分たちが破滅することで、残された人々に幸福を与えることができるかどうか、それは誰よりも長く激しく戦い、生き続けてきた祐一の経験則に基づけば幻のようなものなのかも知れません。

そんな破滅に向かう残党に囚われてしまった真昼と、少女の命運はどうなるのか。どうにも薄暗い感情の暴走で危険なことになってしまいそうですが、そんな悲劇は回避してほしいものです。

明かされた『雲』除去のための非常な手段。ようやく通じ合ったようなサクラと真昼の思い。小さな幸せが生まれようとしているのに、それ以上に過酷な運命が人々を試そうとしている。物語の盛り上がりもいよいよクライマックスといった感じですね。下巻は一体何時出るのやら……。それだけがただただ待ち遠しいです。

hReview by ゆーいち , 2012/01/16

ウィザーズ・ブレイン〈8〉落日の都〈中〉

ウィザーズ・ブレイン〈8〉落日の都〈中〉 (電撃文庫)
三枝 零一 純 珪一
アスキーメディアワークス 2011-02-10

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