煉獄姫 ニ幕

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stars 快楽っていうのはね、憎悪と紙一重なんだよ。憎しみをまき散らす時、そこには快楽が生まれるんだ。さて、だとしたら……きみや私の快楽は、嗜好からなる純粋な法悦かな? それとも憎悪からなる不純な愉悦かな?

塔に囚われた煉獄の姫君――アルトは、牢獄でかつての友と邂逅する。王宮に囲われた少年騎士――フォグは、自らの出生と向き合い、まだ見ぬ妹の存在を知る。
アルトの友でありフォグの妹でもあるその『彼女』は、鮮血と混乱、狂騒と悪意を引き連れ、再び瑩国へと降り立った。
彼女の策略は【煉禁術】で造られた偽りの人間たちを闇へと誘い、未曾有の連続殺人事件を引き起こす。その渦中へ飛び込んでいくことを余儀なくされたアルトとフォグが、戦いの果てに見るものとは――?
策謀と毒気が渦巻く都市【匍都】で繰り広げられる薄闇の幻想物語、第二幕!

におい立つ狂気の香り

やはり、藤原祐という作家は狂気の描き方のバリエーションが豊富だなあと思わされます。

今までのシリーズも、また、今回のシリーズでも、存在自体がイレギュラーの極みであるがために、人として在ろうとするフォグや、そうと知らないままに人間らしい感情を生み出していくアルトのふたりと、一方で彼らと対立する位置に立つ、今回登場したイパーシやキリエ、そして黒幕的なユヴィオールの壊れ方の対比が、どこまでも決して交わることのない平行線であることへの絶望が嫌悪と恐れを生み出しているように思えます。

今巻で登場したフォグの同族。人造人間である【ローレンの雛】の妹・レキュリィの考え方もまた瑩国の未来を憂えながら、その一方でそのために流される血には一切頓着しない極端なもので、この煉禁術のあふれる世界では、こういう思考形態の方が一般的なのかと錯覚してしまいそうになりますね。

新キャラの登場と、黒幕の見通せない思惑、前巻ではあくまで主人公側の顔見せ的なエピソードだったのに対して、今回のエピソードは物語が一気に動き始めた音が聞こえるかのような展開でした。フォグにとっての忌むべき身内である【ローレンの雛】たちの登場、そしてアルトにとっては心に傷を負う原因ともなったキリエとの再会と敵対。蘇った殺人鬼との再戦。そして……。

キリエの、他者を精神的に追い詰めるやり口は時には淫靡に、そしてまた時にはどこまでもおぞましく見えます。それが彼女が生まれから内に抱えてきた狂気なのか、それとも彼女の特性ゆえに後天的に形成されてしまった狂喜なのか、まだ見えませんね。アルトの焦がれるような友達への切望も、キリエには届かないようで。それでも、キリエがアルトを、そして同族で在りながらも自分とはあまりに違うフォグを憎しみ羨むという感情を抱くのなら、どこかで分かり合う余地があるのではないかと希望を持ちたくなってしまいます。それはおそらくは夢のままで終わる儚い希望なのでしょうけれど、そんな救いがどこかにあっても良いのではないかと思います。

でも、結局のところ、最も恐ろしいのは人間の思考なのではないかという結末は想像していてもきついですね。本作を通してみても、禁忌とされるのは、煉禁術を用いて一線を越えてしまった人間たちの名前とその所行ばかり。緩慢な死をもたらす煉獄の毒気よりも、存在の不確かな空想上の怪物や人造人間よりも、身近で存在感のある恐怖とは、他ならぬ人間の手によって起こされる事件ばかりなのだから救われません。

だから、物語のエピローグで、決定的な一線を越えてしまって戻れなくなってしまったトリエラさんの姿にこそ、私は第二幕のどのシーンよりも戦慄させられるのす。かつての淡い思い出さえも、度を過ぎた研究への狂気の前には霞むだけで、結果としてそれに気付いたことこそが、彼女の道を決定的に誤らせ、行ってはいけない側へと足を踏み出してしまったたったひとつの要因なんでしょう。一切の呵責も躊躇いもなく、許されざる研究に手を染める彼女はいったいどんな顔をしてフォグたちの前に現れるのでしょうか。

動き出す物語。この先に待ち受けるのは一体どんな絶望なのでしょう?

hReview by ゆーいち , 2012/01/20

煉獄姫 ニ幕

煉獄姫 ニ幕 (電撃文庫)
藤原 祐 kaya8
アスキー・メディアワークス 2011-01-06

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