剣の女王と烙印の仔〈7〉

stars さあ、思い出して。あなたのその名前は、いったいだれに名づけられたかを。

刻印を戴いた王配侯ルキウスをその手にかけたミネルヴァとクリス。ついに二人の想いは繋がったが、次なる途を自分たちの手で切り開くため、別離の決意をした。一方、総主教選挙で人為による神の力を得たフランチェスカは、聖王国との休戦協定に呼び出される。罠を危惧するも、銀卵騎士団は再び動き出すことになる。そして行方不明になったシルヴィアのため自らの肉体を国王に明け渡し、前線へと行軍するジュリオだが……。「信じていてください。人の心の力を」「それが、人の戦いだから」神の力に抗う少年少女たちが紡ぐ、壮大なスケールのファンタジー、ついに佳境に突入!

[tegaki]ぼくは『それ』を知っている[/tegaki]

聖王国と銀卵騎士団の戦いにも一区切りが打たれようとしているのは、どちらかの一方的な勝利によるものではなく、状況の変化、外国の脅威がそこにあるのは間違いないのでしょう。戦力を二分するような戦いは愚策だし、なにしろ敵は北の暴君・アナスタシア率いるアンゴーラなのですから。

ミネルヴァの妹、シルヴィアはすでに北の手に落ち、彼女を助け出すためにジュリオは自らの肉体が王太伯・ティベリウスの操り人形になるというおぞましい仕打ちをさえ受け入れて戦場を目指します。ミネルヴァやクリスの運命も神に課せられた試練の如く平坦ならぬ茨道だけれど、ジュリオが身を置こうとしている場所、進もうとしている道は、あるいはそれを上回るかもしれないほど過酷なものに思えます。

そして、アナスタシアの暴君ぶりもとどまることをしりませんね。その容姿に見合わぬ残酷さと冷酷さはこれまでもさんざん語られてきたところですが、自ら表立って動き出すとさらに容赦がなくなってきてるような。帝王としての畏怖をこれでもかと残し、高貴ささえ感じさせる立ち居振る舞いをしつつも、他者に対してはどこまでも斟酌などしない。そんなシーンがそこかしこにあるので、ぞっとする場面も多いですね。シルヴィアとともに逃げていたヒエロニヒカが捕らえられ、シルヴィアが無残な姿で発見されるというくだりもそうですが、その後のヒエロニヒカの命を賭けた狂信と、その結末はおぞましいの一言。自分の欲望のためにテュケーの巫女の最高位の座に固執していたかと思ったら、それ以上の覚悟ですでに身を捧げていたとか、彼女の命はなんのためにあったのかと思わずにはいられない結末でしたね。

一方で、聖女の座まで上り詰めたフランチェスカは、彼女の野望、願いの終点が見えてきたように感じます。自分だけの国を作る、その目標が達せられた時に、彼女は自分が歩んできた道を振り返り何を思うのか。目的に近づけば近づくほど、背負わされるものの重みは増え続ける一方で、休まる時さえ奪われつつあるフラン。今はもう、彼女を支え続けてきたパオラや、彼女の騎士・ジル、そして彼女のあるじ・ミネルヴァたちとの関係が残された安らぎなのでしょうか。そんな繋がりさえも、彼女は道具として、作戦のために利用する。それは、神の力を得、行使しうる立場になっても変わらず、意固地に自らの生来の力、策謀という人間に与えられた力のみで戦おうとする彼女のゆずれない一線なのでしょうか。

神の力を操るもの、神に戦いを挑むもの、立場はそれぞれ違えど、物語は神々の定めた運命というレールの上を走っているのでしょうか。自らの呪われた力を制御するために、冥王の真の名を知るために単身、聖王国の深奥にたどり着いてクリスに突き付けられた真実は、どうしようもなく救いがないですね。この事実は、彼がもうミネルヴァとの約束を果たせないという決定的な証拠になるのか、それとも?

様々な思惑が絡み合い、物語は佳境にさしかかっている雰囲気。アンゴーラの脅威も間近に迫り、蹂躙せよと命じるアナスタシアは待ったなし。聖王国内でもティベリウスの妄執は意外な形で実態となり、もはやまともな結末なんて望めそうにないんですがその辺どうなんでしょう?

hReview by ゆーいち , 2012/01/28

剣の女王と烙印の仔Ⅶ

剣の女王と烙印の仔Ⅶ (MF文庫J)
杉井 光 夕仁
メディアファクトリー 2011-02-25