花咲けるエリアルフォース

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stars だから、桜子、きみひとりの戦いだというなら、それでいい。ぼくが――ぼくが、きみの弾丸になる。

戦争で街を焼かれ、家も学校もみんな失ったぼく。東京の中学校に転校する当日、ぼくを迎えに来たのは、桜色に輝く不思議な飛行兵器とそのパイロットの少女、桜子だった。「乗れ、おまえの翼だ」――桜とリンクした戦闘機の適合者として選ばれたぼくは、桜子とともにその超兵器《桜花》のパイロットとなり、色気過多の先輩や凶暴な空母艦長に囲まれ、新しい仲間と災難続きの訓練、そして激化する戦争に否応なく巻き込まれていく。時を止め、永縁に舞い散る桜とともに、戦空を生きる少年少女の、美しくもせつない物語。

いつも通りの杉井光作品。というと身も蓋もないけれど、氏の書く作品に共通して感じられるキャラクター造形、雰囲気がそこかしこに感じられますね。青春小説から、ファンタジー小説まで、ああ、確かにこれは杉井光の作品だと分かる空気を残しながらも、それぞれの物語をしっかり成立させてる辺りが、私が作家買いする理由の一つでもありますが。

ということで、ガガガ文庫からも出ましたよ。今度は日本が二分割された架空の世界で、問答無用で戦いの場に駆り出された少年と、そこで出逢う少女たちの物語。物語のモチーフや展開は、すでにどこかで見たことのあるような作品を想起させられたりするんですが、この物語はこの物語で、それらの作品のパクりで終わらず、心に沁みる余韻を残してくれます。

ソメイヨシノの縁によって出逢うことになる主人公の佑樹と桜子をはじめとする少女たち。選ばれたものだけが操ることができる常識を越えた戦闘機《桜花》のパイロットとして戦場に出ることになる佑樹が見た戦争の姿が描かれます。戦争によって家族を奪われ、各地を転々としてきた彼が、今度は命のやりとりをする戦場で、顔も知らぬ誰かの命を奪うという展開。そこに、佑樹の意志は大きく反映されることはなく、彼は状況に流されていくだけなところが、なんともいらいらさせられますね。彼の処世術と、特に断る理由もなければという受動的な態度は今どきの主人公像ではありますが、逆に積極的に戦う姿勢を見せる桜子たちとの対比でいっそう極端に見えるのかも。

もっとも、桜子自身は彼女の立場上、すべてを背負ってでも戦いを放棄するという選択はできないというしがらみもあり。佑樹とは逆に、自分の意志でもって、この戦争という非日常をなんとかしようとする選択肢を与えられてないのは皮肉なところですね。結局、佑樹も桜子も、他の誰も彼もが、皇国と民国という二つに割られた日本同士の戦いを、止める術を持たないのですよね。戦争という状況がひたすら続いていく日々の中で、その国に住まうひとびとは、それを受け入れ日常を作っていくしかないのです。

平穏とはいいがたい日常の中で、学生たちはそれでも学生らしい日々を送ろうとしながらも、佑樹たちは気まぐれのように選ばれた、それだけの理由でそこからさえも切り離され、戦争という大人たちの手によって作られた状況を日常とせざるを得なくなっています。学生と軍人の両立という異常を受け入れ、戦い、そしていつかは散っていく。そんな死への道を歩くことを強いられながらも、生きることを諦めないのはなぜなのか。それもまた、それぞれの理由があるのでしょう。

桜子は国を背負うという尋常ならざる責務を生まれながらにさだめられたため、佑樹は《桜花》に乗るものの今際の風景を垣間見た恐怖ゆえに。二人の先輩である佳織さんは、そして巫女である神楽は……。

繰り返される戦闘、そのたびに命を奪い、そして味方の命さえも奪われる。極限の状況下で戦う意味を見失い、そして再び見つけることになる佑樹が物語を通じて幸せだったのかどうか、それは彼がこの先に語るべきことなのかもしれませんね。戦いの終結まで生き延び、他のひとびとがどう生き抜いたかあるいは散っていったのか、語られていない部分はあるけれど、それでも彼がソメイヨシノを――桜の花を美しいと思って年を経ることができたというのは救いだったと思いたいですね。

残された9つの桜の樹。残された9機の《桜花》。登場人物たちが駆る機体で登場したのは4機であり、残りの5機は未登場。それはつまり、佑樹たちと関わることになる少年少女たちはこれからも何人も登場し、共に戦いあるいは、矛を交える立場で命のやりとりを繰り広げていくことになるというわけで……。

戦争に救いなどないのかもしれませ。こと、このような運命を背負わされることになる、戦う理由など見いだせない少年たちにとっては。その戦いの中で生まれた絆さえ、あざ笑うかのように反故にされ容赦なく死の谷へと突き落とそうとしてくる。そんな救いのない世界が、この作品の中の日本という国です。文字通り桜の花が散るように散華していく命たち。その散り際はあっけなく儚く、そして美しく悲しい光景。戦争なんて美しくもないもののはずなのに、そう見えてしまうのがなおのこと悲しく思えます。

この世界における靖国という場所。例え別たれてしまっても、みなが戻ってくる場所はたったひとつしかないという事実。それが救いであるかどうかは最後の時まで分からないのだと思います。けれど、物語の終盤、桜の散るに合わせて命が還ってきた光景を見ると、むしろ死せるものにとっての救いなのではないかという思いも抱きます。

救われない思いを抱きながらも、物言わぬ帰還に仮初めの救いを得る。そんな報われない経験をあとどれだけ積み重ねて、彼らは大人になっていくのでしょうか。

1巻できれいに完結していますが、冒頭へと続く物語をぜひとも見てみたいと思いました。

hReview by ゆーいち , 2012/01/31

花咲けるエリアルフォース

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)
杉井 光 るろお
小学館 2011-02-18

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