されど罪人は竜と踊る〈10〉 Scarlet Tide

stars 私が許す。殺せ。無価値なおまえが無価値な隣人を殺し、親を殺し、兄弟姉妹を殺し、子を殺し、妻や夫を殺せ。道で挨拶した人々を殺し、殺されればいい。私もおまえたちを殺すし、おまえたちも私を殺しにくればいい。自分や他人の死という冗談で笑おうではないか。誰も、私とおまえたちの殺人を止められない。

ペトレリカを誘拐したアンヘリオに続いて使徒たちもエリダナに集い、殺人数を競う悪夢の遊戯が開幕!暴走するパンハイマによって死刑を宣告された奴隷頭たちが、猟犬となって街に放たれる。復讐鬼となったロレンゾも参戦し、エリダナは各勢力が入り乱れる鮮血の戦場に。暗躍するアンヘリオの邪悪な遊びは、ガユスと恋人にも降りかかっていく。エリダナを蹂躙する使徒に対峙するのは、凶王ザッハドを餌にした特別捜査官の罠。しかし、祭司に導かれた使徒たちも罠を食い破らんと猛襲。未曾有の殺戮劇場、勝利の凱歌は誰にあがるのか。

もうやめて、ハーライルのライフはゼロよ!

ラストの落としっぷりがハンパないなあ、相変わらず。新キャラはたいてい死ぬというこのシリーズのお約束に則って、登場するザッハドの使徒も、捜査官も、ガユスたちと共闘する咒式士たちも、パンハイマたちも死亡フラグを立てまくりでいつ退場してもおかしくない感じ。アンヘリオの来襲で幕を開けた血の祝祭も、その意味をどんどんと塗り替えられ、もはや全滅エンド以外の結末が残されているのかどうかというところまで混沌を極めてきましたね。

ガユスの不幸を呼び寄せる体質も健在で、彼が愛することになるチェレシアもあっさりと殺されそうな雰囲気が漂いまくりで気が気でないです。これ以上彼の大切な人間が容赦なく奪われる展開になどなったら、立ち直れないところまで追い込まれそうですね。今回もその一歩手前まで追い詰められてはいるのですが、アンヘリオへの憎しみでなんとか自我を保っているといった風情。この殺戮の宴が終焉を迎えた時に、ガユスの手の中に何が残されるのか、それが希望でないのは確かなんだろうなあとか思いつつも、この戦いの落とし所は未だ見えませんね。

復讐を行動の起点とするのは、老ロレンゾも同様で、そして、死期の近さを感じさせるパンハイマにしても娘の救出以上に戦いへの勝利を欲している様子。突き抜けすぎてる人たちの思考について行けないところもあるけれど、こういうワケの分からない展開と救いのない物語運びこそが、このシリーズの魅力でもあるんですよね。どれだけ残酷な展開に持っていくのか、期待するのは不謹慎ではあるのですが、背徳的であるからこその抗いようのない負の魅力を持っているのでしょうか。

さすがに、このボリュームでまだ決着が付かないのは疲れを覚えることも事実ですが。

アンヘリオの宣言で、エリダナの街全土に巻かれた不穏の種。最後の最後でそれが芽吹き、新たな火種となりそうな予感をさせますが、それとは別に、彼がペトレリカを奪われたことで生まれた感情は、彼を金剛石からただの人へと堕落せしめるほころびとなりそうに感じたのだけれどどうでしょうかね? これまでの強敵に比べて決して脅威で劣るわけではないのに、微妙に強敵感がしないのが玉に瑕な彼ですが、追われる側から追う側になったときどんな行動を見せるのか。ガユスたちも微妙に蚊帳の外に置かれがちだけれど、命の危機が迫っているのはお互い様。次巻ではきっちりと決着を付けてほしいなあ。

hReview by ゆーいち , 2012/02/01

されど罪人は竜と踊る〈10〉 Scarlet Tide

されど罪人は竜と踊る 10 (ガガガ文庫)
浅井 ラボ 宮城
小学館 2011-06-17