魔法少女育成計画

stars もうやめよう。生き残るために誰かを傷つけるのだってわたしは嫌だった。でも、もう、そんな理由さえないじゃない。今、誰かを殺めたら、それはもう、魔法少女じゃない……ただの人殺しだよ。

大人気ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』は、数万人に一人の割合で本物の魔法少女を作り出す奇跡のゲームだった。
幸運にも魔法の力を得て、充実した日々を送る少女たち。
しかしある日、運営から「増えすぎた魔法少女を半分に減らす」という一方的な通告が届き、十六人の魔法少女による苛烈で無慈悲なサバイバルレースが幕を開けた……。
第2回「このラノ」大賞・栗山千明賞受賞作家の遠藤浅蜊が贈る、マジカルサスペンスバトル!

宝島社から献本いただきました。

育成計画といいながらも、その内容は『バトルロワイヤル』という、魔法少女の名を冠する作品としては異色作ですねー。16人の魔法少女たちが一人また一人とその命を散らせていく。時にはあっさりと、そして時には血で血を洗うような死闘の果てに。

近年の魔法少女ものは、古き良き時代のそれとは大きく趣を異にしてきている印象はありますが、この作品で語られる魔法少女の在り方というのも、過去から現在へと続いてきた魔法少女ものの扱いを圧縮しているように思われます。

本来なら小さな人助けによって存在価値を与えられていたはずの魔法少女という憧れの存在。確かに、本作でも悪意にまみれた生存競争が宣言された直後は、巻き込まれた16人の魔法少女たちも正攻法で生き残ろうと頑張っているはずでした。が、この生存競争はまさに掛け値なし、文字通りの生存競争で、脱落することはそのまま死につながるという凶悪な結末が明かされてからは、どんどんどす黒い展開になっていきます。

強靱な肉体と、壊れることのない精神、そして与えられる超越的な魔法の力。得ることができたのなら、もはや手放すことなど考えられない特権を巡って、魔法少女達が生き残りをかけ手段を選ばなくなっていくことも当然の流れなのかもしれません。が、やはりこの作品内の魔法少女のシステムには血管というか生々しい悪意が隠されているように思えますね。『魔法の国』の人々は、こういう展開に発展することを想定せずに魔法少女という存在を生み出しているのだとしたら間抜けだし、逆に自分たちの選択が誤ることがないと考え、システム的に可能な同士討ちなど誇り高い精神によって行われないなどと考えているのだとしたら人が好すぎるにもほどがあると思いますね。その辺の構造的な歪みが、愛らしいはずのマスコットキャラをド外道なところまで落としてしまったファヴという存在として顕れているのだろうし、この戦いが結末を迎えたとしても、また新しい悲劇が別のどこかで引き起こされそうだと、容易に想像できてしまいますね。

イレギュラーな事件で片付けられるには凄惨すぎる戦いとその結末。その戦いを引き起こしたのが実に人間的な悪意からだというのが、夢を与える魔法少女の理想を穢し尽くす意図が見えてきて何とも悪趣味です。そういう物語だと分かっていて読んでいても、救いのなさに切なくなるし、かつて持っていた夢が裏切られ、地に堕とされ泥にまみれながらも生きようとする姿に人間を感じます。16人という多数のキャラが使い捨てられるように退場していく様は、他人事のように描かれ、それは作中でも魔法少女を興味本位で語る一般の人たちと同じ視点で見えるように仕組まれているのではないかとも勘ぐってしまいます。それぞれのキャラクターをあまり深く掘り下げず、ただただ戦い死んでいく様を見せつけられるのは人によっては嫌悪が先に来そうなものですが、最後まで読んでみるとこの作品の空気感そのものだったとも感じます。

誰が倒れ、誰が生き残るのか読めるようで読めない予想を裏切る展開。そして、生き残った者たちも、この戦いを経験したことで何かが決定的に歪んでしまったような悪寒を覚えます。壊れることのない心を持つと語られながらも、その在り様がずいぶんと変わってしまったように思える彼女は、この先も生ある限り魔法少女として歩んでいくつもりなのかしら。ゆっくりと狂気に蝕まれ、限界を迎えたときに、どう壊れてしまうのか。そんなうすら暗い未来像を、見てみたいと思うあたり、自分もファヴの思考が決して理解できないわけじゃないんだよなあなんて思ってしまってげんなりしてしまうのです。

別作品の話ですが、愉悦! とか『Fate/Zero』見ながら思ってた人は楽しめるんだろうなあ。私もそうなんですが、こういうどろどろものもたまにはいいものです。

hReview by ゆーいち , 2012/07/22

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魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)
遠藤 浅蜊 マルイノ
宝島社 2012-06-08