C3‐シーキューブ‐〈14〉

stars ようやく、俺自身の実感として、わかった気がするよ。言葉だけじゃなくて、実感として。この願いの裏側にある、世界の全部がどうしようもなく嫌な感覚が、呪いなんだ。きっとそうなんだ……うん、これは、寂しいな。悲しくて、辛くて、どうしようもなくて――こんなのは、ないほうがいいよ。解きたいよな。最初から、呪われたくはないよな。戻ろう。だから、頼むよ。このは。

「おれ、夜知、春亮……って、いうんだ。です」「畏まった口調なぞ要らぬ。ぬしが崩夏の息子じゃな?」
出会いは春亮が九歳の時。それ以来、長い時間をともに送り、たくさんの思い出を作ったこのは。
そのこのはが――敵の手に落ちた。
竜島/竜頭師団ドラコニアンズのニルシャーキの策略により、このはは春亮と過ごした時間の一切を喪失、妖刀村正としてニルシャーキの得物となった。
その圧倒的な力を前に、このは奪還を目指す春亮たちは苦戦を強いられる。そして利害が一致したとある騎士と共闘することになるが――。緊迫の第14弾。

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″ color="darkslateblue"]その呪いは、願いにも似て[/tegaki]

気になる引きで待たされまくり。ようやく続きが読めました。

いやぁ、今回はかなりダークな展開でしたね。今までは割と救いが残されてる部分が多かったし、主要な登場人物以外の犠牲とかもあまりなかったように思うのですが、今回は何か鬱憤を晴らすかのように容赦ない展開に終始しましたね。もともと、春亮ともっとも付き合いの長いこのはが、敵に回ってしまったという展開だけでも胃が痛くなるような雰囲気なのに、彼女が抜けたことによる欠損は読者である私が思っていた以上にどでかい穴となって春亮たちの心を穿っていたのですね。すまん、このは、影が薄いとか、ヒロインぽくないとか、しょせん噛ませ犬とか思っていて本当にすまん……。

ということで、このは奪還のために、これまででも最強クラスの敵・ニルシャーキに挑むことになるフィアたち。以前登場したときからも、圧倒的な強さであることは語れてていましたが、村正たるこのはを手にしたこととで、手の付けられないレベルにまでその強さは到達して。こういう劣勢を知恵と勇気で跳ね返すのが少年漫画の王道的展開なら、毒には毒をもってで、挑むのがこの作品。

春亮にとっても決して引けない戦い。剣殺交叉の要となるこのは自身が敵になったとき、こと、戦いという場において春亮ができることがどれだけ残されているのか。当の春亮自身がイヤというほど理解できているのに、それを認めようともせず、このは奪還戦に身を投じるのは、今回のエピソードで語られたように共に過ごした時間の長さから来ている部分もあるのでしょうね。「このは」となる前の村正との出逢いから語られる、ふたりだけの絆のお話。その、出逢いから和解まで積み重なった時間と出来事は、決して本編におけるフィアとの出逢いからのそれと何ら遜色がないものだったんですよね。だからこそ、このはの春亮への想いの深さというものは、今までのラブコメ的なものではなく、本気の本気なのだということがここにきて本人の口から明言されるわけです。

12巻でのいんちょーさんの告白と行動もそうだけれど、春亮に想いを寄せる女の子たちの気持ちは見事に溢れ、心の堤防を決壊させているような怒濤の展開がここに来て始まりました。ようやく、といっていいのかも知れませんが、春亮も自分の鈍感さを棚に上げ、問題の先送りはもはやできないでしょうね。数歩先を行かれてしまったフィアにしても、物語はクライマックスに向けて加速していくわけで、自分の願いをかなえるための場所をどうやってつかみ取るのか、ヒロインたちのバトルも終局へ向けて突き進んでいくのでしょうね。

それにしても、今回のエピソードで何度も口にされた、願いという言葉。強すぎる願いは、妄執となり果てに呪いとなる。願いと表裏一体と化した呪いはどうやったら解けるというのか、その答えの一例が見えた気がします。けれど、自ら望んで呪いに身を浸してしまったものの末路が、思いを遂げた先にあるのが破滅しかないのなら、春亮は危うくそちらへ道を踏み外してしまうところだったといえるのでしょう。自分がやれること、やりたいこと、身を犠牲にしても為さねばならぬこと。その見極めを紙一重で間違えそうになった彼は、自分がこれまで支えてきた少女たちに救われた部分もありました。だから、反転してしまった呪いを本来の願いへと戻し、遂げさせることができるという可能性が、そこにあるのだと思いたいですね。

研究室長国室長の闇曲拍明が口にした可能性がないという言葉。物語の根幹を揺るがすような発言ですが、彼のこれまでの嘘ではないが真実すべてではないという態度を考えると、さらに裏がありそうですね。強すぎる呪いを身に宿したフィアがどんな未来に至るのか、まだまだ苦難は降りかかりそうだけれど、このはが歩んできた道を見る限り、幸せへと至る分岐はきっとそこにあるのだと思えます。

hReview by ゆーいち , 2012/07/22

C3‐シーキューブ〈14〉

C3‐シーキューブ〈14〉 (電撃文庫)
水瀬 葉月 さそりがため
アスキーメディアワークス 2012-07-10