煉獄姫 五幕

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stars 「初めまして、諸君」 深く息を吐き――彼は、言った。 「私はついに、完全を手に入れたよ」

 かくして匍都ハイトに幻獣たちが襲来した。
フォグとアルトはトリエラの狂気に抗うため、彼女の過ちを止めるため、暴虐そのものである巨大な化け物──龍と相対する。
一方、レキュリィたちはもちろんキリエすらも幻獣との戦いに巻き込まれる中、機に乗じたユヴィオールが野望とともに王城へと行軍する。瑩国の崩壊はもはや目の前に迫りつつあった。
そして、四人の人造人間── 『ローレンの雛』 たちに背負わされた運命が暴かれる時、すべては一点に収束し……。
策謀と毒気が渦巻く都市【匍都】で繰り広げられる幻想の薄闇物語。終わりの始まりが今、幕を開ける。

滅びの鐘よ、高らかに

うわああああ……文字通りの絶体絶命。これ、どうやって挽回するんだ……!?

そんな戦慄の第5巻。瑩国に仇なすユヴィオールの計画はついに最終段階に。数多の厳重を率い匍都を瓦礫にせんとする、その総攻撃さえも彼にとっては目的達成の手段に過ぎなくて。すみません、今までの印象でどうにも小物くさいとか言っていて。計画に瑕疵があっても、それをノリで修正して本体の目的につなげていく手練手管は十分ラスボスの風格ですよ。そりゃあ、殺戮博士も一目置くわ……。

ということで、バトル満載、伏線回収満載のエピソードでした。クライマックス直前なだけに、廃墟と化していく匍都を舞台に、まずは対幻獣の大立ち回り。人間では抗うことの難しい巨大な獣を相手に、見事な連携を見せるフォグとアルトの成長がお見事。一方では相変わらずの最強爺なカルブルック翁も貫禄を見せつけ、身内同士のつぶし合いになってしまったキリエの戦いも、これがまさに彼女の戦い方とばかりの嫌らしい戦法で圧倒します。まぁ、これが前哨戦で時間稼ぎというのがまさに二重三重の罠だったわけですが。

フォグたちの前に現れたトリエラさんの壊れっぷりがやはり切ないですね。かつての彼女を知るフォグだからこそ、彼女を救いたいと懸命に戦ったのだし、そして壊れてしまったトリエラさんも、すでに自分が戻れないところに来ていることを自覚し、踏み越えてしまった境界を戻ることを選択しなかった。自分がどうしようもなく狂ってしまっていることを、けれど明晰な彼女は自覚することができたがゆえの悲しい末路でした。結局の所、狂っているのを自覚的に楽しんでいたわけでなく、かけらとして残っていた人間らしさが彼女を人間として死なせてやったということなんでしょうか。王弟リチャードたちを狙ったイーサの最期とは余りに対照的で。死すべきものは死すべしという結末は同じなのに、最期を看取った人物の心に残るかどうかで、その死の価値はずいぶんと変わってしまいますね……。

そして、ついに目的を達成したユヴィオール。てっきりフォグたちと同様、『ローレンの雛』に列なる存在だと思っていたら、その予想をあっさりと覆してくれました。どこかで他人を見下したような思考の彼こそが、失敗作の烙印を押された劣等感の塊だったとは。それでも人間よりあらゆる面で優れたというスペックは本物だったんでしょうね。格上のはずの『ローレンの雛』たちを相手に、見事に裏をかいて己の術中にはめてやったのですから。

ここからの容赦なさは、さすが藤原祐といったところ。生き残りそうだった人物さえもさくさく退場していきます。あっさりと王様とか弑逆されちゃうし、リチャードもそのまま犠牲になりそう。絶望の底でさらに絶望を見せつけるという黒さがここに来て全開で、これまで積み上げてきた積み木を一気に崩すような落下感を覚え、スゴいの一言。

すべてを手に入れ、すべてを超越したユヴィオールはまさに規格外で。あらゆる切り札を切っても彼に抗するには足りず、手の内を明かし尽くしたフォグたちに勝機などあるのかというレベル。まさにジョーカーと化した彼から辛くも逃れても、アルトは囚われたままという絶望的な状況。残された時間はなく、状況をひっくり返すための策も思いつきそうになく。滅び行く国を救うことができるのかどうか、残り1巻がどんな展開になるのか、非常に楽しみです。

それにしても、ツンデレなお友達と化しているキリエさんかわいいなあ。どれだけ敵対していても、心の底ではアルトの無事を願うあたり、もう十分お友達ですよ。不遇な状況におかれている人造人間たる彼女たちに、救いがもたらされるのなら、この物語は十分にハッピーエンドなんじゃないかと、そんな風に思います。

hReview by ゆーいち , 2012/08/20

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煉獄姫 五幕 (電撃文庫)
藤原 祐 kaya8
アスキー・メディアワークス 2012-05-10

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