空ろの箱と零のマリア〈5〉

stars ふふ、安心したよ。もうこれで――。誰も、信じなくて、すむ。

大嶺醍哉が手にした箱は“罪と罰と罪の影”。
人々の罪を可視化、それを取り込むことによって対象を傀儡化する“箱”を使い、彼は人間を『選別』していく。
自身の信念に基づき邁進する醍哉。
そんな彼を“敵”とみなす星野一輝は、醍哉を止めるため、箱“願い潰しの銀幕”の使用を決断する。
そして醍哉は、気づけば無人の映画館の中に閉じ込められていた。ここが一輝が展開した“箱”の中だと気づいた醍哉は、対抗するための手段を模索する。
“箱”VS“箱”。衝突する二人。
果たして勝者は――?

4巻を読んだのが2年前ということで、話を忘れてる部分もありましたが、本巻を読んだら大丈夫。だいたい思い出しましたよ。

後戻りできないところまでやってきて、互いを潰すことを選択した親友であったはずのふたり。一輝と醍哉。“箱”の力を手に入れ、他者を操るという能力をいかんなく発揮する醍哉のパフォーマンスはまさに最後の強敵といった風情。一方の一輝も、もはやなりふり構っていることもなく、これまで決して手を伸ばそうとしなかった“箱”を使ってでも醍哉を止める決意をして……。

ここまできたら、お互いが和解することなどあり得ない段階。直接対決来るか!? と思ったら、醍哉の願いだけを潰すという“箱”、「願い潰しの銀幕」に囚われ、醍哉は思いもよらぬ形で過去の傷跡と対峙することに。うわぁ、この攻撃、エグイよ! 肉体的に傷つけられても、醍哉というキャラは耐えてしまいそうな雰囲気でいたけれど、お手のものとしていた精神攻撃にさらされたときにはさすがに無傷とはいられなかったようで。覚悟完了して破滅上等で一輝と戦うことを選択しても、まさかこういう方法で攻めてくるとは、醍哉だけでなくこれまで読んできた読者も予想できなかった展開かも。

主人公たる一輝もマリアに対して醍哉との対決を隠しているし。前のエピソードのあたりから感じられていたけれど、強固だったはずのふたりの信頼関係というものが揺るがされてきてる雰囲気ですよね。そして、その予感は醍哉と、彼の手先になった色葉さんの手によって現実のものとされ。他人を操る力というのはありきたりな能力のようだけれど、醍哉の“箱”によって与えられる力というのは諸刃の剣過ぎるなあ。他者の罪を飲み込むことで支配下に置くというハイリスクな能力。おかげでみんな壊れる壊れる。理性的だった色葉さんは、見る影もない外道に落ちぶれてしまいましたよ。序盤から嫌な予感はしていたけど、醍哉だからこそ使いこなせる力だったのに、それを受け入れてしまった段階で彼女の破滅は確定していたんでしょうね。正義をねじ曲げ、自分の力に酔ってしまったものの末路という点では、これまでの登場人物たちと同じ道を歩んでいるといえるわけですが、この落差激しい凋落具合はなんとも容赦ないですね。

そして、ついに訪れた一輝とマリアの決定的な決別。危ういバランスの上に成り立っていた関係は、お互いが意識的に都合の悪いところを隠して見ぬふりをしていたからこそだったわけですが、マリアの一輝への信頼も、ついに地に落ちてしまいましたね。まぁ、これだけ独善的にマリアを顧みず裏切り続けていれば、と自業自得な部分もあるのですが、その後の核心部分は、もう、さらにえげつないなあと。

マリアとOの関係、そして一輝が果たすべき役割。そして、一輝の歪みまくってしまったマリアへの愛情が最悪ともいえる形で花開く。すべての願いを潰えさせたいという自殺的な願い。それを体現するための力を与えられたのが他ならぬ主人公だったとは。その事実を知り、一輝自身も狂気に囚われてしまったかのよう。一線を越えないで踏みとどまるということもできたはずなのに、彼もまた己の願い、欲望を実現するために“箱”の力を手にしてしまう……ってそうすると、作中でも明かされていたけれど、肝心の「願い潰しの銀幕」って誰の力なの? という疑問が。すでに登場人物は限られてきているので、候補者は少ないんですが、現実世界で心がバッキバキに折れてしまっている心音さんとかも、かなり病んでる様子でしたが、果たして……?

次巻が本当のクライマックスになるのでしょうか? ついに明かされたOの正体とか、元に戻ってしまったマリアの行方とか、一輝と醍哉の対決の結果だけでは片付かないくらいにこじれてしまい、あとはもう全滅するしかないじゃない的なバッドエンド直行ルートに入ったような気がして仕方ないんですが、歪んだ願い同士の戦いの果てに、誰の願いが生き残るのか、そして、その願いは持ち主を救ってくれるのか。そんな甘い結末は用意されてないとしか思えないんですが、どう決着を付けてくれるのか楽しみに待っています。できるだけ早く、刊行してくださいね!

hReview by ゆーいち , 2012/08/21

空ろの箱と零のマリア〈5〉

空ろの箱と零のマリア〈5〉 (電撃文庫)
御影 瑛路 鉄雄
アスキーメディアワークス 2012-07-10