新生徒会の一存―碧陽学園新生徒会議事録 上

stars 今日も今日とて絶好調の生徒会に、思わず溜息をつく。この生徒会が発足した、あの当時。誰が、こんな地獄絵図みたいな日常を想像していただろうか。

私立碧陽学園生徒会室―そこは選ばれし者だけが入室を許される聖域にして楽園…だった。少なくとも去年までは。
前生徒会メンバー桜野くりむ、紅葉知弦が卒業し、椎名姉妹が転校した碧陽学園。三年生となった杉崎鍵は、新生徒会の活動初日、誰ひとり生徒会室に来ない中で美少女新役員四人に向けて、満面の笑みで叫ぶ。
「全面戦争と行こうかぁっ、新生徒会ぃぃぃぃいいいいいい!」
これは碧陽学園新生徒会メンバーの、愛すべき日常が始まるまでの記録の一端であり、ひとりの少年の奮闘記でもある。
「生徒会の一存」アフターストーリー始動! ただいまっ!

なんだかんだで、最後まで付き合った「生徒会の一存」シリーズの公式アフターストーリー。あくまでアフターストーリーで、新シリーズとして本作を続ける気はなさそうでしっかりと「上」の記述もございます。そんなこと言っても、人気が出たりするとシリーズ化とかもあり得そうなのはどこの業界でもいっしょで、評価が微妙な新アニメはともかく、本作はなかなかしっかりラノベしてる雰囲気で好感触。

雰囲気は意図的に変えているんでしょうねー。前シリーズの愉快で楽しい生徒会の面々と別れ、ただひとり碧陽学園の生徒会を託される形になった杉崎。かつての一年で積み重ねた思いが重すぎるのか、始動すらままならない新生徒会のメンバーのやる気のなさと協調性のなさに彼らしからぬ激昂も。もともと、ピンチの時はここぞとばかりに熱い男になるキャラでしたが、やや空回りな印象を受けるのも、新しい生徒会が彼の理想と異なるがゆえの、もどかしさと焦りに突き動かされているからだったんでしょう。

でも、こんなときに頼りになるのは、離れていてもつながっている旧メンバーたち。自分たちも新生活を始めて、環境の違いに戸惑っていることもあるだろうに、杉崎との会話はかつてのように軽やかで楽しげでそして相手への思い遣りに満ちていて。ちょっとした心境のゆらぎさえもあっさり見抜かれ、そんなんじゃないだろうと彼女たちなりにハッパをかけ、彼の背中を押してくれる。なんだかんだで積み上げてきた時間と、つながっている気持ちというのは杉崎にとって何よりの武器であるのは間違いないですよね。肝心の前会長・くりむの登場は次巻へ持ち越しになってしまいましたが、上巻で攻略できた2名に比べて、残りの2名の女の子はそう簡単には攻略できそうもない強敵っぽいし、どんな無茶と名言をひっさげて登場してくれるのか期待したいところですね。

さて、新メンバー。名前に方角の字を持っている4人の女の子。同級生の水無瀬流南を除けば新登場な面々で、これまでのシリーズを読んできていても先の展開はなかなか予想できず。そもそも、新生徒会長の当選に至る流れさえも想像の斜め上で、これまでとは別の意味で強烈に印象づけられます。

今までも過去エピソードでは、割とシリアスな内容を持って来ていましたが、今回はそれがリアルタイムで進行している模様。とある自分の特性から努力も他人との関わりも避けるようになってしまった西園寺つくし。逆にその特性が彼女を新生徒会長に押し上げてしまったわけですが、周囲の期待と自身の評価のギャップに悩む姿はこの物語の中では新鮮。卑屈すぎる姿勢の理由もまた他人からは簡単には共感できないものだというのが難儀ですが、それでも、そんな彼女の手を引くために懸命になる杉崎の姿は熱い! だから、こういうがんばり見せられたら、助けられた方は惚れてしまうって。そういう意味で二重に攻略してしまう主人公、さすが、ハーレムを目指すだけのことはある存分に爆発しろ!

2番目に手を差し伸べた流南の側も、彼女の融通の気かなさがゆえのディスコミュニケーション。自分の頑張りでたいていは何とかなっていた彼女が、そうも行かなくなってしまったときに陥ってしまった苦境。結局、それもまた、彼女自身の意固地さが招いた誤解に近いものではあったんですが、そのために東奔西走した杉崎の側も、大きな誤算と爆弾を抱える羽目になってしまうという罠。いやぁ、家庭の事情にみだりに踏み込むと火傷するのは確かですが、これは火傷どころじゃ済まなそうな雰囲気。いったいこの主人公、自分のポリシーと自分の命を天秤にかけてどんな答えを出すのやら(笑)

というところで、次巻に続く新エピソード。最後の最後でラスボスっぽい雰囲気で紹介された彼女は確かに怖そうですが、不意を突かれた際に漏れ出る素の部分はやっぱりヒロインな感じがしてますね。商業シリーズではどれだけシリアスに、邪悪にキャラを描こうとしても最終的にはいい落とし所で話をまとめてくれる作者なだけに、どろどろした展開は物語の途中だけで、最後は気持ち良く締めてくれると思いますが果たしてどうなることやら?

新ヒロインたちもなかなか魅力的な感じがして素敵ですが、妙にデレてる枯野先生と杉崎にやりとりがニヤニヤしてしまうのはきっと私だけではないはず。

続きに期待!

hReview by ゆーいち , 2012/11/24