ストライク・ザ・ブラッド〈5〉 観測者たちの宴

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監獄結界からの脱出を果たした、仙都木阿夜と六人の魔導犯罪者たち。彼らの目的は“空隙の魔女”南宮那月の抹殺だった。阿夜の奸計によって魔力と記憶を奪われた那月は、幼児化した姿でなぜか浅葱に保護されることに。脱獄囚たちの襲撃で窮地に陥る浅葱の運命は?
一方、重傷を負った優麻を救うため、古城と雪菜は巨大企業MARの研究所を訪れていた。そこで古城たちを出迎えた人物とは――?
世界最強の吸血鬼が、常夏の人工島で繰り広げる学園アクションファンタジー、待望の第五弾!

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″ color="MidnightBlue"]世界をあるべき姿に[/tegaki]

ついに解放されてしまった監獄結界。辛うじてその機能は死んではいないものの、弱体化した牢獄は力ある者に対しては無力で、仙都木阿夜と六人の魔導犯罪者が脱出を果たしてしまいます。結界により現世とは別の空間に隔離するしかなかったほどの凶悪な能力者をどう無力化するのか、バトル満載でお送り……しなかったー!

この作品、やっぱり主人公側のスペックが高すぎるので「ちょっと凶悪」なくらいではハンデを与えないと緊迫感のあるバトルになり得ない気がしてきました。第四真祖である古城は、巻を進めるごとに天災規模の災厄をまき散らす眷獣を一体、また一体と支配下に置いてきているし、獅子王機関の巫女さんたちもだんだん古城との連携が取れてきてる。さらには古城の力を狙っているはずの吸血鬼の貴族・ヴァトラーさえも、そのときが来るまでは状況を楽しみつつも何気に事態の収拾に貢献しているという。まぁ、彼の場合は自分の楽しみ=戦いなので、こういう危機的状況は願ったりで、かつ、自信の実力が今起きる程度の事件ではびくともしないことを熟知してるんでしょうね。味方としては頼もしい部分はあるものの、結局は敵に回ることが確定している爆弾のような存在だから、そんな人物に借りを作るのは利子がとんでもないことになりそう。

前巻からの続き物であるため、物語はここから反撃、な流れ。傷付いた優麻を診てもらうために登場する古城の母・深森さん。彼女もラ・フォリアに輪をかけたくらいにややこしい母親だなあ。古城や凪沙のかつてあった事件についていろいろ知っていそうな雰囲気だけど、それは今回は解説はおあずけ。物語の核心に触れるエピソードでもあるだろうから、ここぞという場所で語られるんだろうなあ。かつて出逢った少女というのが、元第四真祖で、凪沙の中に眠っている人格の主っぽいけれど、一二番目とか呼ばれていたし微妙に怪しいところはありますね。

そんな古城の事情に、相変わらず肝心なところで踏み込むタイミングを逃す浅葱さん、かわいそう。今回は小さくなった那月=サナとの絡みで古城と過ごす時間も多くて、一緒にお風呂とか役得(誰にとって?)もあったけれど、大事なことははぐらかされ、ジャマをされ、彼の真実に触れることができてません。こと、恋愛方面においてはけっこう頑張っているような気もしますが、秘密にされている事実が、彼女にとって衝撃となるのかあるいは取るに足らない些細なことなのか、その選択がどうなるのかも気になるところ。まぁ、古城の言葉ひとつで気合い入れてイメチェンしたり、割と惚れた相手に染められることを嫌がらない部分もあるため、まとめて受け入れる母性を見せてくれたりしたら、この古城を巡る恋愛模様、まだまだ波乱が続きそうですが、果たして……。

逆に良くも悪くも物語にいじり倒されている沙矢華さんはどうなんでしょうか。男性が苦手なくせして、頭の中はエロいことでいっぱいじゃないですかー。いちいち古城の言葉に脳内ピンクに染め上げて可愛いったらもうね。この娘も惚れた相手には口ではなんと言っても押されるままなすがまま、なんでも捧げてしまいそうなチョロさがどんどん加速している様子。雪菜のことを心配しながらも、実際は古城を取り合ってるっていう構図が面白すぎます。加えて、沙矢華自身は自分がもてあましているその気持ちが、恋愛感情であることにまだ気づけていないという。むしろ雪菜の方が彼女の様子を察してる風なのが事態をより面白くしてますね。そして、その雪菜の自分の気持ちに蓋をしているのか誤魔化しているのか、古城への独占欲は見せるくせにそれを恋と認めることから目を背けているというか。

この辺の雪菜の特殊性については、彼女が雪霞狼の使い手として見いだされ、育て上げられたという事実と関連しているのかも。今回の敵方、仙都木阿夜が彼女に投げかけた言葉を、彼女だけの妄想と作中で否定されきっていないわけで、それが存在しないはずの第四真祖、その先に待ち受けている、さらなる強大な敵へとつながっている気がします。ああ、そうえいば別シリーズの『アスラクライン』でも最終的には世界そのものといえるようなラスボスが出てきたし、ファンタジーよりな展開をしているけれど、この作品世界、科学技術もオカルトとの融合が当たり前に進んでいるわけで、そういう超常的な何かが今後現れることもあるのかもしれませんね。

でも、そんな最終局面に至る前に古城には解決しなきゃいけない難題もありますね。雪菜の最後の告白めいた言葉に若干引いてる所もあるし、まだ誰かを選ぶなんて究極の選択は荷が重そう。一進一退を続ける女の子たちの水面下の駆け引きは攻略対象の主人公をそっちのけでまだまだ続くわけですね。これだけ言われてもピンとこない鈍感主人公の攻略は難度高すぎですが、ともあれ頑張れヒロインたち。続々登場する新キャラに負けるなー!

hReview by ゆーいち , 2012/12/02

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ストライク・ザ・ブラッド 5 観測者たちの宴 (電撃文庫)
三雲岳斗 マニャ子
アスキー・メディアワークス 2012-10-10