魔法少女育成計画 restart(後)

stars 死ぬなら死ねばいい。死ぬならそれは間違った魔法少女だったというだけのことだ。正しい魔法少女であれば絶体に生き残る。神様が選ぶのだから。

ひたすらに激化していく、囚われの魔法少女たちによる生き残りゲーム。残酷かつ一方的なルールの下で、少女たちは迷い、戦い、一人また一人と命を落としていく。警戒すべきは姿の見えぬ「マスター」か、それとも背後の仲間たちか。強力無比な魔法が互いに向けられる時、また一人新たな犠牲者が生まれる――。話題のマジカルサスペンスバトル、第二幕の完結編! 最後まで生き残る魔法少女は、いったい誰なのか!?

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″ color="darkred"]ここが、絶望の果て![/tegaki]

上下巻に渡って繰り広げられた、魔法少女たちのバトルロイヤルもついに終幕。第一弾のストーリーと違って、今回参加した16人の魔法少女たちは、ルールに則って進めば命を落とすことなくゲームを脱出する可能性が残されていた……はずだったけれど。

うわあああ……、悪趣味だ! 結局、ストーリーの前提条件が後編の最初で思いっきり覆されてるんじゃないですか。味方の中に裏切り者がいる。それは、このゲームをクリアし、莫大な賞金を手にするために欲に負けて他者を陥れようとしているという意味と同時に、まったく理由もなく最後の敵として祭り上げられてしまった少女が、ただ生き延びたいという一心で、結果他者を殺める選択をしてしまったという意味でもあって。

少しずつ減っていく参加者。極限状態におけるせいなのか、パーティ内でさえ生まれ、広がっていく不和の亀裂。ゴールが近づくにつれ、魔法少女たちの神経はすり減り、ただこの救いのないゲームからの脱出のみを願っていたはずなのに、最終的にお互いに命をかけて戦わざるを得なかった彼女たちの結末は、個々のキャラクターが2巻にわたって描かれてきただけに、後編で描かれたどれもがやるせないものでしたね。

そして、最後の最後で明らかになる魔王の正体。それに至るまでの裏切り者との戦いと、前巻の謎の回収も上手いこと片付けたかと思ったら、その先にあった本当の結末へ至るための戦いは、理不尽としか言いようのないものでしたね。彼女がそれを望んでいたわけではなくても、結局、状況をそうなるように誘導し、他者の背中をそっと押したという事実があり、本人もそれを狂うこともできずに受け止めてしまったために生まれた悲劇。本当なら戦いを望んでいたわけではないのに、死ぬわけにはいかないという思いに突き動かされて、みんなが死力を尽くした結果がこれでは、生き残った者の心の中にさえ一生消えない傷を刻み込んだだけじゃないですか。このゲームに魔法少女たちを巻き込んだマスターの思惑の歪みっぷりも相まって、物語のあらゆる結末は苦みたっぷりのものでした。

前編を読んだ後にぼんやりと感じていた、登場人物たちの中での怪しさや違和感という部分は、後編でほとんど種明かしがされ、そうして物語全体を見渡してみると、なるほど、最初の『魔法少女育成計画』がスタートする以前から引きずってきた因縁が、ここまで魔法少女たちの運命に絡みついているというのは想像以上でした。今回のデスゲームに参加させられてしまった少女たちの背景も悲惨きわまりないものだし、同情の余地はないとはいえゲームを造り上げたマスターも、その過去があったためにここまで狂気に駆られてしまったのでしょう。そして、そのマスターが正義と信じているスノーホワイトも本来なら仲間であるはずの魔法少女を手にかけることを、諦め交じりで受け入れてしまっている風なあまりの変わりように、彼女自身の絶望を思ってしまいます。

結局、この悲劇の中で、誰が正しいことを成せたというのでしょう。すでに手を汚してしまった彼女たちは、記憶してしまった彼女たちは、その罪を忘れることもできずこれからも魔法少女とを続けていくのでしょうか。正義のために活躍するはずの魔法少女が、こんな罪を背負ってそれでも形のよく分からない正義というもののために働かなければいけない、そのことが終わりのない罰であるかのようですね。

それでも、物語のエピローグは、こんな救いのない物語の結末のくせに綺麗すぎて涙が出そうになります。多くの死を背負ってしまった彼女たちが、それに押しつぶされまいと、互いに支え合っているかのような繋がりの形に、少しだけ心が軽くなったように感じます。この先、彼女たちが魔法少女として生きていくのか、それとも引退するのか知りたいような知らずにいたほうがいいような、微妙なところですね。魔法少女という歪んだ運命を生み出すシステムに組み込まれてしまった彼女たちの、この先が少しでも幸いなものであることを願わずにはいられない、ビターな結末に静かに拍手を起こりたい気持ちです。

いやぁ、それにしても、こうも救われない展開はなかなかないですね。物語の組み立てが第一弾に比べてボリュームが増えた分だけ巧妙になっていたと感じ、それだけ登場人物たちに感情移入するシーンが増えました。第一弾が割とぱたぱたキャラクターが退場していっただけに、この二冊にわたる物語は、その分痛さ倍増、だがそれがいい! そんな物語の不幸に愉悦を求めるアレな読者にはどストライクなシリーズに成長していきそうな気がします。続きもきっと出るよね、期待していいよね?

hReview by ゆーいち , 2012/12/07