エスケヱプ・スピヰド 参

このページは約 5分44秒で読めます。

stars ――違うな。何も終わってはいない。あれは中断されただけに過ぎまい。帝都を掌握し軍備を整えればまだ戦える。打ち倒すべき敵はまだいる。全てを、再び、やり直す。二十年前に成し遂げられなかったことを、やる。それで全てが正常に戻る。崩れたこの国も、歪んだ歴史も正しく進む。

量産型鬼虫たちが狙う第三皇女のクローン鴇子の記憶。それは、鬼虫の要を成す金属“星鉄”の存在だった。九曜たちが手にすれば、今は亡き鬼虫シリーズを復活させられるかもしれない。だが、量産型鬼虫たちが手にすれば、彼らの力は鬼虫と並ぶ。待ち受ける先にあるのは、光か闇か――。二つの側面を併せ持つ金属“星鉄”を巡り、新たな戦いが加速し始める。
その頃尽天の町では、《蜂》と《蜻蛉》の機体、そして九曜の師であり好敵手である竜胆の体が、海から引き上げられようとしていた――。
最強の兵器・鬼虫たちが繰り広げる神速アクション、シリーズ第3弾!

甲虫王者ムシキングが始まったかと思ったらR-TYPEでござった! カブトムシが波動砲って……!?

敵方の量産型鬼虫=甲虫の首領格は、文字通り昆虫の王者甲虫カブトムシをモチーフにした機体。展開が早くて、倒すべき敵の前に苦杯を味わわされる展開、まさに王道です。九曜を九番式の鬼虫たらしめた半身、《蜂》の復活を予感させながらも、そこへ至る道の険しさに気が遠くなりそうです。

帝都に尽天から1巻以来お久しぶりの菘が登場して、九曜の周りは姦しいことこの上ないですね。立ち直った鴇子さまと、どんどん遠慮がなくなる機械兵・菊丸のコンビ芸も冴え渡って、序盤は和む和む。戦いしか知らなかった兵器としての九曜が、そうなる前の少年時代に戻っていくかのように、その穏やかな時間を言葉にせずとも感じているような描写がほんとうに上手い。彼とともにある叶葉の願いが少しだけ叶ったかのような、日常風景。

けれど、甲虫の存在が明るみに出、放置することなどできないという状況は変わらず、見えない敵を手探りで探すような牛歩の歩みから、“星鉄”の存在が知れてからのスピード感がいいですね。後半はまさにバトルバトルで各局面で様々な形で戦いが展開されるのは熱い!

敵・甲虫の中でも特別製の特機を相手に鬼虫を持たない九曜はおろか、巴や剣菱まで苦戦するのはかなりの危機感です。量産型と侮っているわけでもないでしょうが、敵が鬼虫の切り札ともいえる特別攻撃術までものにしているというのは予想の上。まさに、旧型対新型という構図になりますが、特別製の鬼虫をも上回るようなスペックを実現している特機の背後関係もまた気になるところ。次巻は敵のアジトへの潜入になりそうですが、たしかに虎穴。今まで以上に危険な場所での戦いは、ハンデを背負っている現状ではさらに厳しさを増しそうですね。

敵の目的が兵器の本懐を果たすことで、それはかつて最強の名をほしいままにした鬼虫九機が担っていた役割を引き継ぐことと同義なんですよね。けれど、これまで語られてきた鬼虫となった者たちの人物像を知るにつれて、戦うために生きながらも、そこには明確に戦う意志というものが存在していたのだと感じられます。けれど、それを否定し、強固な意志など廃し、ただ戦うという現象を起こす機械の部品になればいいという虎杖の思想は、九曜の師にして壱番式の竜胆にどこか似ていても対極にあるものなのでしょう。だから、九曜は勝機薄い戦いでも虎杖に対して背を向けることもなく、限界を超えた先でも戦う意志を捨てなかった。その意志を折ることはもはや誰にも叶わないことなのかも知れませんね。

物語を通じて起きている、兵器として生きながらも、少しずつ人間らしくなっている九曜の変化がとても好ましく思います。彼の視点で見る世界が、少しずつ色づいてきているのを感じます。単なる兵器としてしか見ていなかった機械兵たちにも戦友としての絆を感じ、彼ら一体一体、一人一人の結末を悲しむ感情さえも抱くに至った九曜。叶葉と生きることで戦う意味もまた変わり、戦いが終わった今を正しく生きようとする彼らを守ることに戦う意義を見いだす。それはかつての終わりの見えない戦いに身を投じたことよりも、さらに尊いものを失わないための戦いでもあるのかもしれません。巴が物事の優先度を明確にしているように、九曜の中にもまた、今までの旅で培ってきた新しい価値観による譲れない一線が生まれているのを感じます。決して相容れない虎杖との戦いは初戦においては惨敗も良いところでしたが、これからの反撃に期待です。

が、状況はさらに危機的な感じになっていますね。引き上げられた《蜂》と《蜻蛉》に加えて、死んでいるはずの竜胆とさらには“星鉄”までもが敵の手に。これはあれですか、最強の壱番式鬼虫復活フラグと見てもいいんですかね? 帝都ではさらに眠っている鬼虫の覚醒実験に挑む流れだし、実現しないと思われていたはずの鬼虫九機の揃い踏みとか見てみたいですねえ。そんな中でも単身でその強さを鬼虫、甲虫と互角にまで練り上げる九曜の姿とかあったら、もう大変なことになりそうですが、そんな熱い展開をぜひ!

hReview by ゆーいち , 2012/12/11

photo

エスケヱプ・スピヰド 参 (電撃文庫)
九岡望 吟
アスキー・メディアワークス 2012-12-08

    スポンサーリンク

    Trackback URL

    No Trackback to エスケヱプ・スピヰド 参

    Still quiet here.

    Comments are closed.