正義の味方の味方の味方

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stars 家族だから家族を大切にする。そんなもんだろ。いちいち理由とかきっかけを求めること自体、意味がねえ。俺は凜奈の味方になりたい。そう思っただけで十分だ。

正義の味方の味方の味方 書影大

『善悪戦争』により、正義が悪を葬りさった現代。そんなスケールのある世界観とは裏腹に、マンションの一室にこっそりと棲息する秘密結社があった。ゼロウ・ファミリー――総帥一名、怪人一名、つまり弱小である。かわいらしい少女でありながら総帥を務める凛奈。炊事、洗濯が目下の任務となっている怪人、橙也。
そんなささやかなファミリーが今日解体する。その後、学校に通うことになるらしい……正義の味方養成機関、白陽花学園に。なぜに、正義の味方の学校に!? ぼやく橙也であった。こうして、正義の味方を目指す(?)総帥と怪人というおかしなスクールライフが始まるのだが!?

悪の怪人、正義の味方になります……!?

過去にいろいろありました哀川譲の復活作。汚名返上なるか? というのが注目されるところですが、私個人としては十分に楽しめた一作でしたよ。コメディ部分も、シリアス部分もきっちり描いてくれて、終盤の盛り上がりは良い感じでした。

かわいいくせに弱小秘密結社の総帥を務める凜奈と、その結社唯一の怪人である燈也。先行き不安な秘密結社生活から脱出し、転身先はこれまでとはまるで正反対の正義の味方……?

過去にあった『善悪戦争』で、巨悪は滅び正義の味方に守られた世界は一見平和な様子。それでもこの世界に正義の味方養成機関なんてのが必要とされるのは、悪の栄えた試しはなくとも、悪が滅んだ試しもないと、皮肉っているように思えますね。そもそも、警察機構以上の戦力を個人で持つようなトンデモな能力を正義の御旗のもとに自由に振るえるというのは、何も力を持たない一般人からしたら脅威に映るんじゃないかと、そんなことも突っ込んでしまいたくなるんですよね。

正義の味方が正義の味方であるためには、それと対立すべき正義の敵が必要とされる。弱小ながらも悪の秘密結社を受け継いだ凜奈が、その組織――ゼロウ・ファミリーを大事にするのは、彼女自身の奇妙な信念が根底にありました。正義の味方にあこがれているから、自分たちは彼らを引き立てるため、悪を行い、そして正義に倒されなくてはならない。それは、逆にまじめに(?)悪行を行ってきた他の悪の組織から見たらなんと奇妙な存在理由なんでしょう。他の悪は、悪であるが故に正義の味方を倒すことを目指していたというのに、それとは正反対の理由で自身が倒されることを受け入れているとか。

そもそも彼女の「正義の味方の味方」という言い方は、その字面のどこにも悪の字が入ってないんですよね。まるで自分たちも正義の味方の一部であるかのように振るまい生きる。それは、怪人として古参で、様々な悪人を見てきた橙也の価値観を大きく揺るがす存在だったんでしょう。所属している組織が悪を名乗ろうとも、凜奈自身は悪に染まることなどできないくらいの根っからのお人好しで、傷付いた怪人にさえも手を伸ばすくらいに優しくて。何もできない弱い存在だからこそ、強さを持っているくせにその強さを、自分の望みのために使おうとしても失敗しかできなかった怪人に「護られる」という役目を押しつけることができたんでしょうか。それはまるで、彼女が憧れる正義の味方の役割を……強きをくじき弱きを護る、そんな正義の在り方を怪人に担わせるような暴挙。けれど、それは二人にとってのもっとも強い絆で、家族そのものの証。正義が氾濫している世界で、たった二人で生きていかなければならない二人にとっての拠り所に思えますね。

凜奈にとっての最大の味方。それは名も知れない数多の「正義の味方」なんかじゃなくて、ずっとそばに居ると誓った橙也なんだと。正義の味方の味方の味方はそこにいるんだと、彼女が再認識するラストシーンはお見事。自分が弱いなら橙也が護ってくれる、それは身勝手な無茶振りでもなく、橙也自身が望みようやく叶ったたったひとつの願いだと。こういう繋がりを暖かく見せてくれるお話は、ホント、大好きです。

なんだか、二人の関係ばかり語ってますが、サブキャラもなかなか魅力的ですよ? まぁ、クラスメイトたちの活躍とか事情とかは、続きがあるならおいおい語られていくんでしょうけれど、昔の橙也とも顔なじみで学園長をしているロリババアなシャルロットのインパクト。訳知り顔な八〇歳のロリババア設定はあざとい! けど、美味しいところを持って行ったりして、今後も妙なところで燈也との絡みが出てきそうな雰囲気ですねー。その都度、凜奈による改造手術のお仕置きは限度知らずに過激になっていきそうですが。橙也は自分の純潔を守りきれるのか(笑) ぜひとも続きをお願いしたい!

いやー、ということで、名誉挽回な復帰作、結構気に入りましたよ。続巻出るよう応援したいところです。まぁ、過去作は完全に黒歴史になってるようですが、時間をかけて借り物じゃないオリジナルなストーリーを頑張って書いてほしいですね。作風は好みなのでこれからも期待しています。

hReview by ゆーいち , 2013/01/19

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正義の味方の味方の味方 (電撃文庫)
哀川譲 さくやついたち
アスキー・メディアワークス 2013-01-10

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