六花の勇者〈3〉

2013年4月18日

stars 一つだけ、願いが………あります。もしもあなたが、また、危機に陥ることが、あったなら………。またあなたを、助けに行っても、いいですか。

六花の勇者〈3〉 書影大

テグネウの脅威にさらされたまま、魔哭領を奥へと進む六花の勇者たち。
その道中、ゴルドフが突如「姫を助けに行く」とだけ告げ、アドレットの制止を振り切って姿を消す。
不可解なゴルドフの行動に、六花は再び混乱に陥る。
ゴルドフが「七人目」なのか、それとも何かの策略にはめられているのか…!?
さらに、再び現れたテグネウは凶魔たちの内紛について語り、挙句に自分と手を組まないかと提案をしてくる。
果たしてその真意とは?
伝説に挑み、謎と戦う、圧倒的ファンタジー、第3幕!

[tegaki font="mincho.ttf" size="36″]誰がほんとうの敵なのか?[/tegaki]

敵の思惑は少しずつ見えてきたにしても、七人いる六花の勇者のうちの誰が裏切り者なのかはいまだに手がかりもなくて。多数決で誰が怪しいかなんて、周囲には敵しかいない状況でお互い声を大にして疑い合うなんていうのは愚策に思えちゃうんですが、それでも誰かを疑わずにいられないのは、世界の命運をかけた決して負けることのできない戦いの、瀬戸際に立っているからなんですよね。……だが、モーラ、お前が音頭を取って疑念の声を上げるんじゃあないぜ!

一方のアドレットはそんな形で誰を疑うかを明言するのは避けたい慎重派。でも、それが結果として後手に回ることも多々あって、今回の事件では下手をすればそれが致命傷にもなりかけていたという。

明確に六花を人類を裏切ったナッシェタニアの再来。猫を被って周囲を騙していた1巻のときとは違って、思いっきり戦う気満々ですね。しかも、彼女の裏切りは、自身が六花に選ばれる遙か以前から綿密にドズーとともに計画していたという用意周到さ。そして、それを実現するだけの意志と実力が彼女に備わっていたというのが始末に負えない最悪の敵になってしまってますね。あくまで上品に、笑みさえ浮かべながらも理解不能な価値観で行動する王女。彼女が目指している人と凶魔の共存という未来像も、ともすれば狂っているようにさえ思えるナッシェタニアの口から語られると、それが果たして一般的な平和と同じ意味なのか怪しく思えてしまうふしぎ。

そして、そんな彼女に心酔し、崇敬し、忠誠を誓う騎士、ゴルドフまじ騎士の鑑。王女との出会いと、それをきっかけに変わった彼の在り方を知ると、ナッシェタニア至上主義とでもいうようなゴルドフの行動が少しだけ理解できてきますね。何を置いてもナッシェタニアのために行動するというのは、他の勇者たちと同じ方向を向いている限りは心強い限りですが、正体不明の裏切り者を抱え、さらに場合によっては本当の六花であるはずのゴルドフも王女の側に付くという身内同士のつぶし合いの構図さえ、実現しそうな不穏な空気ですよ? 今回の事件で結果的にゴルドフは彼自身は真正の六花であることが証明された形ですが、それでも魔神討伐まで彼が勇者でいられるかどうかというのは、ドズーたちの計画が本当に平和に繋がるのかが判明するまでの先延ばしの状況。おそらくは、目的達成のためには死ぬまで止まれないナッシェタニアである限り、対決しなければならない未来しか見えないんですが……。

いやぁ、今巻は視点がころころ変わるので状況把握がしづらく混乱する場面もありました。ゴルドフの離反から、その真相へ至るまでの流れが、アドレット側、ゴルドフ側、ドズー・ナッシェタニア側、そして事態を引っかき回すだけ引っかき回してくれたテグネウ側と、それぞれの陣営から一つの出来事を見るにしても思惑が絡まり合いすぎて大変なことになってましたね。結局、テグネウの知略が、各陣営を手駒のように動かしたという、勇者側にとっては敗北にも等しい結果ではありましたが、それでもまだ命は落としてない。新しい同盟に繋がるなど、過去にはなかった状況が生まれつつあるのを魔神側がどうでるのかも注目ですね。

意外だったのは、最終的な目標である魔神が、ああいう形で存在しているということ。それじゃあ、話し合いで解決しようなんてことにはならないわけですわ。ドズーたちが計画している方法は、新たな魔神を生み出すことで、戦いを回避しようというわけですが、果たして新たな魔神はどこから生まれてくるのか、人にありながら人とはまったく違う生き物に見えてしまうナッシェタニアが魔神になるとかそんな展開なの? 話し合いはできても、それじゃあ結局戦うしかないような気がするなあ……。

そして、今代の討伐劇で起きた混乱は遙か以前から仕組まれていた可能性も浮かび上がってきましたよ? 人側と凶魔側の、歴史に残されていない裏事情がそこにはありそう。単に、魔神を倒せば、はい解決なんて簡単な構図ではないようですね……。真実はいったいどこにあるのでしょう。

hReview by ゆーいち , 2013/01/22