塔京ソウルウィザーズ

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stars ヒルダが支えてくれたから、俺は立ち上がれた。ヒルダが隣にいてくれたから、もう一度、歩き出す決意が持てた。ならば、自分が歩んだ道が間違いであったとしても。たとえ、その道が――神の頂に決して届かぬ道であったとしても。俺は、ヒルダと共に、その道を歩み続ける。それが……黒乃一将の魔道だ。

塔京ソウルウィザーズ 書影大

鉄の箒にまたがった魔女が、夜空を滑走する。ここは≪塔京≫。ソウル・ウィザーズが集いし魔法の都。
自分のソウルを改造し、死者のソウルを消費することで『奇跡』を起こす者達をソウル・ウィザードという。
時計塔学園・双児宮に所属するウィザード・黒乃一将は、『自由騎士』として、自身の守護霊である不死の魔犬ブリュンヒルデと共に≪児雷也≫討伐クエストの任務に就く。
動物霊召喚専門ペットセメタリーの異名を持つ一将は、奇策により≪児雷也≫に勝利。焼け残ったアジトから、金髪の少女の姿をした謎のホムンクルス≪ソフィア=04≫を発見する。そのヒューマンタイプデバイスは、一将に幸運と凶運をもたらし……。

魂を食らい、神の頂を目指せ

新人賞の時期ですね。電撃大賞も数えること19回。ひとまず受賞作は全チェックでいこうかと。

ということで、銀賞受賞作『塔京ソウルウィザーズ』です。

舞台は近未来? 『神災』と呼ばれる出来事以降、この世とあの世が混ざり合ってしまったかのような奇妙な世界。魂を消費し奇跡を起こすソウル・ウィザードたちが神の領域を目指し鎬を削る都市『塔京』で事件の幕が上がります。

世界観がかなりごった煮な感じで、設定を見ているだけでお腹いっぱいになりそう。詰め込んであるんですが、まだ完全に消化し切れていない感じなのかなあ。作品世界で扱われる魔法の概念がどちらかというとSF的な要素が多く(人工知能だとか、魂のプログラムだとか)、他の作品との差別化を狙っているのが感じられますね。個人的には、設定や用語に和製RPGn匂いを感じてしまい、なんだか既視感バリバリでしたが、好きな人には好きなのかも。逆にいえば、世界観を受け入れやすいということでもありますが。

物語は前半と後半で大きく雰囲気が変わりますね。前半は、主人公・一将の自由騎士としての仕事ぶりや世界観、魔法の概念の解説を、面倒ごとを持ち込み結果的に彼の奴隷になってしまった椎名真央とのやりとりを通して行い、後半では一将の過去の後悔を描きながら、彼らがどう生きるか、彼ら自身の答えを見いだす再スタートを描く。

前半は比較的ライトな雰囲気なんですよね。猫耳メイドになり、身分まで奴隷のランクにまで落とされた真央を引き取ることになった一将。彼の第一の使い魔であり、彼の守護霊でもあるヒルダと新入りである真央との確執。ご主人様が男で、意志ある使い魔が女二人という見事なまでの三角関係がどうなるかと思ったら、予想を超えたヘヴィな展開に。

使者をよみがえらせることは正しいことか否か。過去様々なお話で、それが正解だったことはそれほど多くなく。また、この物語でも、一将が過去に行い、全てを失い、後悔したそれもまた、愛犬ヒルダをよみがえらせ自らの守護霊としたことに起因します。彼自身も、それが明らかな誤りだと分かりつつも、彼女の意志に、献身に応える術は彼女と歩み生き続けるという、彼らだけの回答を得、そして新しい家族として真央を受け入れていくという終盤の流れはかなり好みですね。単なる嫉妬で一将を取られるかという独占欲で真央に辛く当たっているだけかと思ったヒルダの真意が、そんな単純なものではなかったというのは意外でしたね。彼女の人格を組み上げた一将の予想を超えた思考と感情を身につけつつあるヒルダは、もはや人工知能の枠を越えつつある存在であると。血筋に恵まれつつも名家である黒乃家には絶縁され、ただひとりで魔術師としての実力を練り上げてきた彼の研鑽も驚愕なものですが、彼の魂の伴侶となったヒルダの思いの強さにも心を打たれるものがあります。

一方の真央には、この世界は非常に厳しいものなんでしょうね。愛猫を失い、その魂と融合を望み、結果として人権さえ失い一将の奴隷に落ち着くという転落っぷり。それでも、一将の迎えたものは家族として扱うという主義に救われ、けれど魔術師としての生き方には絶望するしかない。今までのように諦め、誰かに救ってもらうような受け身の生き方では、いられないという現実は、地獄のようなものでしょう。しかし、彼女は最後には戦うことを選ぶ。一将のように後悔せず、そして、彼らによって差し伸べられいったんは救ってもらった自身が決して不幸ではないと証明するために。矛盾する誓約を身に刻み、命をかけて、命を奪わぬ為の戦いを選ぶ。それは、もしかしたら、一将の生き方よりもよほど辛い道のりなのかもしれませんね。そして、また、その誓いは、一将が真央を育て上げることの、彼女自身が生きるための誓いにもなるのでしょう。

強大な敵を退け、新たな約束によって、神の頂を目指す決意を新たにする一将。物語はいったん閉じてはいますが、張り巡らせた伏線はずいぶん回収されてないですよね。実家との因縁や真央の飼い猫だったグゥの魂に刻まれていた女性の正体、損な役回りばかり押しつけられている瑠璃嬢の扱いとか、今後の展開もにおわせる要素が満載です。続刊が出ることに期待しています。

hReview by ゆーいち , 2013/02/11

塔京ソウルウィザーズ

塔京ソウルウィザーズ (電撃文庫)
愛染猫太郎 小幡怜央(スクウェア・エニックス)
アスキー・メディアワークス 2013-02-09

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