やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。〈4〉

stars 誰もが過去に囚われている。どんなに先に進んだつもりでも、ふと見上げればありし日のできごとが星の光の如く、降り注いでくる。笑い飛ばすことも消し去ることもできず、ただずっと心の片隅に持ち続け、ふとした瞬間に蘇る。由比ヶ浜結衣も、葉山隼人も、そしてたぶん、雪ノ下雪乃も。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。〈4〉 書影大

夏休み。誰とも会わず、遊ばず、働かず。一人悠々自適な生活を送る八幡だが、平塚先生から招集がかかり、奉仕部として雪乃や結衣たちとともにキャンプ場でのボランティアを強制される。しかし、なぜかそこにいたのは葉山、三浦などの「リア充」組。強制的に発動された青春っぽいイベントに、八幡たちはどう立ち向かう?水着に花火に肝試し、キャンプの夜の会話、そして風呂……? 「みんな仲良く」なんてできるわけがない!? 夏は、ぼっちにとって忌避すべき危険がいっぱい。相変わらずひねくれ、間違い続ける青春、第四弾!

[tegaki font="dfgot_p.ttc" size="36″]ぼっちのなつやすみ[/tegaki]

長期の休暇こそ、リア充とそれ以外の明暗がはっきりするとき。自宅に引きこもり、休みを休むために費やす八幡と、文字通りに青春を謳歌していそうな葉山、三浦たちの、交わるはずのなかった運命が交錯するっ……! 大部分が平塚先生の策略でしたが!!

そんなわけで、小学生たちの面倒を見るボランティアに駆り出された奉仕部の面々プラスリア充勢。この組み合わせは波乱の予感という気がしないでもないですが、混ぜるな危険というほど劇物同士ではなかったのかな。小さな衝突はあるし、雪乃さんと三浦は相変わらず水と油、氷と炎、混ぜるとメドローアな相性最悪な二人ですが、1巻の時ほど大ごとには発展しなかった感じ。いや、お互いの内心ではすんごい毒吐いてそうですけど、表向きはね?

子供たちとの交流を通してほのめかされる雪乃さんや葉山の過去。グループからはじき出された鶴見留美という少女の在り様が、おそらくは昔の雪乃さんの姿とダブって見えてるんでしょうね。かつて、葉山は同じような方法で雪乃さんを救おうとして失敗した。そして、今、留美を救うことで過去の罪を精算しようとしているのか。その方法は、決して本人を救うことにならないのだと、昔を覚えているのなら理解できそうなものなのに。そして、それは当事者だった雪乃さんや、同じような経験をして、自ら孤立を望んできた八幡の目から見ればどうしようもない悪手であるというのに。

リア充とぼっち。価値観の違いすぎる両者が、同じ目的のために手を取る、という美談にはならず、結局リア充の理論で、リア充の輪から弾かれた誰かを助けるというのは傲慢だったという話なんでしょうか。事態を収拾……というよりもご破算にして最初からやり直さざるを得ない状態にまで後退させたのは、八幡のやり方で。そのやり方は、決して綺麗でもスマートでもクレバーでもなくて、みんながみんな落ちてしまえばいいなんて、暴挙にも程があるような方法。お互いが欺瞞の中で友だちという虚構の関係に縋っているのが許せないのか、八幡の望む友人関係というのは非常に潔癖なものに感じますね。今までも彼自身が語ってきたように、薄っぺらい表面だけの関係を続けることは苦痛でだからこそ、自分はそこから外れても仕方がない。望んで一人でいることを選ぶ。逆に、そういう自分が誰かと友だちになるのだとしたら、欺瞞も裏切りも許せない……あるいは自分がそれに耐えられないと言っているように思えますね。

大人になるということが、その表面上の付き合いを受け入れ、上手くやる方法を見つけることだということを、平塚先生は語り、八幡自身も理屈は理解しているような感じ。だけど、それを受け入れ、実践するには、彼はある意味で純粋すぎるのではないかと思えてきますね。だからこそ、先生も彼を気にかけ、少しずつ人との触れあいの中で変わっていくことを期待して、奉仕部に引き込んでいるのだと思いますが。むしろ、そのおかげで変わったのは八幡自身というよりも、その交流の中で触れ合った雪乃さんや結衣の方だったというのは皮肉な感じではありますが。

過去に受けた傷というのは簡単に癒えるものではないんですよね。ことあるごとにフラッシュバックして心を抉られてる八幡は言うに及ばず、この夏の出来事を通して雪乃さんも、結衣も、ここまで重要なキャラになるとは思わなかった葉山も、幼かった頃の失敗を行いを思い出を忘れることなく抱えている。それが今の行動に繋がっているのは確かで、現在になってようやく繋がりを得た八幡と雪乃さんの関係とは違う形で、雪乃さんと葉山の関係も続いてきてるんだろうな。葉山がいつにない様子で語ることを拒否した、彼が好きだという人物「Y」は順当に行けば雪乃さんなんだろうけれど、その思いの根幹にある出来事はまだ語られず。幼なじみの関係だったふたりがどうして疎遠になり、雪乃さんが憎しみに近いような感情を葉山に向けるようになったのか、それが明らかになるのは、また自体が決定的に変わっていくそのときなんでしょうか。

葉山が八幡との距離を少し縮めてきているような感じがするのも、雪乃さん絡みなのかな。そのやり方に同意することもできず、けれど結果的に正解に近い形で収集して見せた八幡の行動。彼をして「仲良くできない」などと言わしめる八幡は、ようやく葉山にとって一顧だにする価値のある存在になったともいえるのかも。自分がその場所にいられないという悔しさへの反発とも取れる言葉ですが、今後どんな展開を見せるのか。

夏が終わり、新しい学期が訪れる。当たり前の時間の流れですが、雪乃さんだけ、そこから取り残されてしまったようなエピローグ。奉仕部の面々を結んでいたのは、八幡が遭った事故。結衣と八幡だけでなく、そこに雪乃さんまで絡んできて、彼らの関係も単純なものではないということがはっきりと。ああ、前巻で引かれていた一線というのは、加害者と被害者、そんな思いによって、雪乃さんが踏み込むまいとしていたのかも知れないですね。唐突に現れ雪乃さんを奪っていった姉の陽乃さん。妙に凄みのある言動でプレッシャー半端ないですが黒幕というよりも、雪乃さんにとっての大きな壁という感じの存在の完璧超人。彼女もなんだかこれからもいろいろ絡んできそうで波乱の予感です。

hReview by ゆーいち , 2013/02/17