甘城ブリリアントパーク〈1〉

stars わすれないで――。これが最初で最後の、あなたが知るわたしの気持ち――。

甘城ブリリアントパーク〈1〉 書影大

「唐突だけど……可児江くん。わたしと遊園地に行かない?」
謎の美少女転校生・千斗いすずが、可児江西也を放課後の教室でデートに誘ってきた。転校初日から校内で噂になるほどの女の子に誘われるというのは、悪くない構図だ。ただし――、こめかみにマスケット銃を突きつけられてなければ、の話だが。
しぶしぶ承知して向かった先は「甘城ブリリアントパーク」。ダメなデートスポットの代名詞として名高い遊園地だ。そこで西也はラティファという“本物の”お姫様に引き合わされる。
彼女曰く「あなたにこの『甘城ブリリアントパーク』の支配人になって欲しいのです」……って、なんで俺が!?

『フルメタル・パニック!』の賀東招二せんせの新シリーズ。と言っても、過去作読んでないんで、これが初見なんですけどね!

フルメタの印象が強かったんで、割とハードな物語なのかなあと思ったら、イラストの通りに甘めのお話? いや、潰れかけのテーマパークの閉園2週間前になって、存続条件の来場者数10万人をたたき出せって、いきなりふっかけられたら高校生でなくても逃げたくなるから、そういう意味ではファンタジーだけど無茶振りが過ぎますよね。どうしてこうなった……っ!

まぁ、その辺、どうして主人公の可児江西也でなければいけなかったのか、とかはけっこう過去から伏線が張られていたというネタふりはありますが、にしても、せめて1年の猶予がある状態で彼に打診していたら、もうちょっとハードル下げられていたんじゃないかなあとか、物語の設定に真っ正面から突っ込んでしまいますが、多分なんか理由があったんだろうなあ。お姫様……ラティファの事情とかも考えると、彼女が西也を選んで力を与えるという機会は、あのタイミングをおいて他にはなかった、とかね。

そうそう、無茶振りを何とかするのがファンタジー要素、と思っていたらこのテーマパーク「甘城ブリリアントパーク」自体が魔法の国だったでござる。マスコットたちに本当に中の人がいないとか斬新にもほどがある。そのマスコットたちの性格が、オッサンじみているとかもう、やばすぎる。こんなぐだぐだしているマスコットを見たら子供の夢は木っ端微塵ですね。この設定を思いついたのがリアルにネズミーな国に行っているときだったとかあとがきで書くもんだから、なんという底意地の悪さ! とか思ってしまうじゃないですか。けれど、これくらい強烈な個性付けがされていた方が印象に残るし、ぶっちゃけ、この巻だけを見ると、ヒロインのラティファやいすずたちよりもよっぽど目立っているというか。

というか、話を引っ張っていくのが西也と、甘城ブリリアントパークの従業員……キャストたちになると、その戦力になかなかならない彼女らはお話に積極的に絡むには難しい立場なのかも知れませんね。お色気なサービスシーン要員で駆り出されたりしたけれど、そこの挿絵をもっとですね見せてほしかったのですよ。

主人公、西也の過去の売れっ子子役だった事実を忘れるように学校生活を送っているのも、また複雑な事情が絡んでそう。けれど、彼の根底にあるエンタテインメントに対する情熱というかまじめさというのは決して失われてはいない、本気になってからの真剣勝負さはナルシストなそれまでの態度とは裏腹に、非常に共感できる部分がありますね。自分がけなされることよりも、自分が提供するエンタメで楽しんでいる客をけなされることに怒るとか、楽しさを提供する側が忘れてはいけないことを持ち続けている主人公。腐ってしまいかけていたキャストたちに再び火をともすのも彼の嫌われ役を買いながらも、そうなるよう仕向けていった彼の手管の見事さに思えますね。もちろん、良い要素が重なりに重なった幸運に助けられた部分もありますが、最後のハードルを越える為に、正攻法ではクリアできないと分かったときに、自分の手が汚れるのも厭わず、最後の決断を下し行動に出るとか、当初の嫌々な態度からは想像もできないような真剣さに変わっていきましたね。

ラティファの思いに応えるためとはいえ、危険な橋を渡ってしまいましたね。ラストでは、明確に『敵』な存在も正体を現したし、単なるテーマパークの建て直しストーリーでは終わらなそうな雰囲気がぷんぷん。ひとまず再スタートの権利をようやく得て、ここからが本当の再出発。西也とラティファ、いすず、他、愉快な仲間たちが織りなすストーリー。どんな感じで展開していくのか、つかみは上々。この先の物語が楽しみになる第1巻でした。

hReview by ゆーいち , 2013/03/04

甘城ブリリアントパーク〈1〉

甘城ブリリアントパーク1 (角川ファンタジア文庫)
賀東 招二 なかじま ゆか
富士見書房 2013-02-20